水中施工の課題と技術革新の必要性
近年、日本の社会インフラは老朽化が進み、ダムや港湾施設、河川構造物などの水中部分における更新・補修工事の需要が急増しています。しかし、高水圧や視界不良といった過酷な環境下での作業は、安全性や効率の観点から大きな課題となっています。従来の手法では、潜水士による目視確認が必要でしたが、人的リスクの増大や作業の精度確保が困難であることが大きな課題となっていました。
こうした状況を打破すべく、熊谷組は世界初の音速自動補正機能を備えた高精度水中測位システム「AquaMarionette®(アクアマリオネット)」を開発。この技術により、リアルタイムかつ高精度で水中施工機械の位置・姿勢を把握できる「水中デジタルツイン」を実現しました。
水中デジタルツイン技術とは?
デジタルツインとは、現実空間(フィジカル空間)と仮想空間(サイバー空間)をリンクさせ、リアルタイムで情報を再現する技術です。これを水中施工に応用することで、目視が困難な環境下でも、施工機械の位置や動きを正確に把握し、遠隔での施工管理が可能になります。
熊谷組は、国立研究開発法人 土木研究所の円形水槽を用いた実証試験において、「AquaMarionette®」を活用し、水深20mのマルチパス環境下でも安定した測位が可能であることを確認しました。
「AquaMarionette®」の技術的優位性
一般的な水中測位技術は、音波の反射や水温・塩分濃度の影響を受けやすく、測位の精度にばらつきが生じることが課題でした。しかし、熊谷組が開発した「AquaMarionette®」は、以下の独自技術を組み合わせることで、従来のシステムと比較して圧倒的な精度とリアルタイム性を実現しています。
- 世界初の音速自動補正機能
従来のSONAR測位システムでは、水温・塩分濃度・水深ごとに異なる音速を個別に測定し、後処理で補正する必要がありました。しかし、「AquaMarionette®」は熊谷組独自のアルゴリズム(特許申請中)により、リアルタイムで音速を自動補正。これにより、測定の精度向上と作業時間の短縮を同時に実現しました。 - 過酷なマルチパス環境下でも高精度測位が可能
水中での音波計測は、周囲の壁面や水底・水面による多重反射(マルチパス)の影響を大きく受けます。特に、ダムや港湾施設の近接地では、この影響が強く出るため、一般的な測位技術では対応が難しいとされていました。しかし、「AquaMarionette®」は高度な距離検知能力とロバスト性(頑強性)を備えており、水深20mの環境下でも安定した測位が可能であることが実証されました。
今後の展開 〜水中無人施工の実現へ〜
今回の実証実験により、「AquaMarionette®」は水中施工の精度向上に大きく貢献できることが明らかになりました。今後、熊谷組は以下の分野での実用化を進めていく予定です。
- ダム・護岸工事への適用拡大
・水中の老朽化インフラの補修、撤去における精密施工の実現
・潜水士の作業負担軽減と安全性向上 - 水中施工機械の遠隔操作・無人化
・遠隔制御システムとの連携による施工自動化
・無人重機による水中掘削・補修作業の確立 - 災害復旧工事への活用
・洪水や地震で被災した水中インフラの迅速な復旧
・目視困難な状況下での作業効率向上
まとめ 〜水中建設のDXが拓く新たな未来〜
熊谷組の「AquaMarionette®」は、水中施工の精度と安全性を飛躍的に向上させる画期的な技術です。これまで潜水士の経験や勘に依存していた作業を、デジタルツイン技術によって科学的に可視化し、遠隔で制御することで、建設業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる可能性を秘めています。
水中インフラの維持管理の重要性が増す中、こうした先進技術の導入は、作業の効率化だけでなく、持続可能な社会インフラの構築にも貢献するでしょう。今後の実用化と普及が、建設業界全体にどのような影響を与えるのか、注目していきたいところです。
この内容に関するお問い合わせ先
□株式会社熊谷組 広報部広報グループ
TEL:03-3235-8155
この技術に関するお問い合わせ先
□株式会社熊谷組 土木事業本部土木DX推進部
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