鹿島建設
AIでコンクリート構造物の表層品質を評価するアプリを開発。

sugitec

概要

鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、データに基づいてコンクリート構造物の品質および生産性の向上を実現するためにAIでコンクリート構造物の表層品質を評価する「コンクリート・アイ®」の開発に至り、施工の様子を公開。


なぜ、コンクリートの表面状態の検査が重要か?

コンクリート構造物の品質は、使用材料や配合等のコンクリート自体の品質に加えて、製造、運搬、型枠、打込み、締固めおよび養生の施工要因の影響を大きく受ける。

例えば、同一のコンクリートを用いて構造物を構築したとしても、施工によってコンクリート構造物の品質には大きな差異が生じ、極めて品質の高いものになる場合もあれば、検査には合格しても、施工条件のわずかな違いで不合格になりうる場合もある。

ここで、コンクリート構造物の品質は、構造体の強度に関わる品質と耐久性に関わる品質に大別される。前者は、主に構造物の内部の品質であり、打込み、締固めが比較的容易にできるため、施工の影響をさほど受けることはない。

したがって、所要の強度が得られるコンクリートを用いて、豆板やコールドジョイント等の重大な欠陥を生じないように施工すれば、ほとんどの場合、その品質を確保できる。

一方、後者は、図-1 に示すように劣化因子がコンクリートの表面から侵入するため、構造物の表層部の品質が重要になる。

しかし、構造物の表層部は、図-2 に示すように打ち込まれたコンクリートが鉄筋を通過してかぶり部に充てんされたコンクリートで形成されるため、施工の影響を大きく受け、一般に内部のコンクリートよりも、材料分離が生じやすく、密実に充てんされない場合もある。

コンクリートの表層部の品質が、密実でなく、表面気泡、砂すじ、沈みひび割れなどがある場合には、そのコンクリート構造物は比較的早期に劣化することが予想される。

したがって、コンクリート構造物の品質を考える場合には、この表層部の品質が極めて重要になる。

「コンクリート構造物の品質向上と表層品質評価手法」
坂田  昇・渡邉 賢三・細田  暁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj/50/7/50_601/_pdf
図-1 劣化因子の浸透概念図
図-2 かぶり近傍のコンクリート

コンクリート・アイ®

鹿島建設は、コンクリート打設後の表面状態の検査および品質管理を支援するツールとして、
コンクリート構造物の表層品質をAIが評価するアプリを開発しました。

鹿島建設は、コンクリート構造物の品質を確保・向上するためのシステム「コンクリート・アイ®の構築を進めています。

「コンクリート・アイ」は、生コンクリートの現場受入れ時の性質や状態、コンクリート打継面の処理状態、打設後の表層の品質など、各段階における「コンクリートの状態」をリアルタイムで「見える化・データ化」し、それを分析することで、コンクリート品質の改善活動(PDCAサイクル)に反映するシステムです。

このたび開発したアプリは、コンクリート・アイを構成する要素技術のうち、コンクリート打設後の表面状態の検査および品質管理を支援するツールです。

本アプリは、コンクリート構造物の表面の写真からAIが品質を評価する機能を有し、誰でも一定の精度でコンクリートの品質を評価することができます。
また、評価結果はリアルタイムでクラウドに集積されるため、施工条件や環境条件などのデータと連携した表層品質向上のPDCAサイクルを回すことができます。
これにより、コンクリート構造物の品質の確保と向上に大きく貢献します。

コンクリート・アイ 概念図

開発の背景

橋梁やトンネルなどのコンクリート構造物を構築する大部分の工事では、長期にわたり大量のコンクリートを打設します。
これらの現場では、コンクリート打設のたびに表層品質向上のPDCAサイクルを回し、改善を図っています。
しかしながら、打設後のコンクリートの品質を評価・分析するためには、硬化前のコンクリートの性質や状態、環境温度などの入力や書類の保管に多くの労力が必要で、データ連携による施工へのフィードバックが困難でした。

評価の手順

本アプリを用いることで、現場で・誰でも・簡単にコンクリート構造物の表層品質を評価できます。
評価の手順は、以下のとおりです。

  1. タブレットのカメラでコンクリートの表層の写真を撮影。
  2. コンクリート表層品質を6つの項目(打重ね線、表面の色つや、表面気泡、沈みひび割れ、ノロ漏れ、砂すじ)に分けて、1点から4点まで0.5点刻みでタブレットに評価を入力。
    評価は、点数入力の際に表示されるグレード分けされたサンプル画像と撮影した写真を比較できるため、容易に判定可能。
  3. AIが6項目の評価値を0.1点刻みで表示。
    AIによる評価を目安に(2)で入力した評価をチェックするため、入力者の個人差を解消した一定精度での評価が可能。
  4. 評価結果はクラウド上に自働保存されるため、同一現場のコンクリート品質の評価推移などを即座に確認可能。また、帳票の出力もワンタッチで可能。
  5. コンクリートの受入れ時のフレッシュ性状データや環境データなどを、コンクリート・アイで自働連携。

将来的には、自働連携したデータをAIが分析し、次のコンクリート打設における改善や工夫を技術者に提案できる機能を搭載する予定です。

コンクリートの表層を撮影している様子
表層品質評価アプリによる判定と出力帳票一例

現場への適用

本アプリを、水処理施設の建設現場に適用しました。
本アプリでコンクリートの表層品質を評価し、そのデータに基づいた分析から、打込み順序と層厚の変更により打重ね時間間隔を短くするなど表層品質向上のPDCAサイクルを回しました。
その結果、アプリ適用前と比較して打重ね線の項目が高い評価となり、品質が大幅に向上しました。

水処理施設工事におけるコンクリート表面
PDCAサイクル適用前後の評価結果
コンクリートの表層品質向上に関するPDCAサイクル

資料引用:鹿島建設

今後の展開

今後、本アプリをより多くのコンクリート構造物の構築工事に適用することで、全国の現場へ広く展開していきます。

また、本アプリを活用してコンクリート構造物のさらなる品質向上を目指すとともに、品質向上に資する各種工夫の蓄積、高品質のコンクリートを施工するための新工法の開発などを、より一層推し進めていく方針です。

おわりに

冒頭で引用した論文「コンクリート構造物の品質向上と表層品質評価手法」の発表が2012年。
当時は目視での評価手段をふくめた、鹿島建設の試行錯誤の取り組みが読みとれます。
今、10年を経て、目視評価から機械学習のAI評価へと昇華させた鹿島建設。

お時間がありましたなら、こちらの論文も目を通していただけると、コンクリートの表層品質の重要性が学べることでしょう。


参考・関連情報・お問い合わせなど

□鹿島建設株式会社
プレスニュース:
https://www.kajima.co.jp/news/press/202209/13c1-j.htm

引用論文
「コンクリート構造物の品質向上と表層品質評価手法」
坂田  昇・渡邉 賢三・細田  暁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj/50/7/50_601/_pdf

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