概要
2021年6月、木材利用促進の対象を公共建築物から、民間建築物を含めた建築物一般に拡大するための法改正が行われ、脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律の施行から一年足らずで、木造建築の市場のトレンドはどう変化しているのか。そして、竹中工務店が木造技術のシリーズ展開に木による付加価値向上技術「KiPLUS®」を新たに展開を発表。中高層木造ハイブリッド建築に貢献を目指すというリリースニュースです。
公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律が制定されて約10年が経過しました。
この間、耐震性能や防耐火性能等の技術革新、建築基準の合理化等により、木材利用の可能性が大きく広がっています。また、2020年10月、我が国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。
森林はCO2を吸収し、固定するとともに、木材として建築物などに利用することで炭素を長期間貯蔵可能です。加えて、省エネ資材である木材の利用等はCO2排出削減にも寄与します。
戦後植林された国内の森林資源が本格的な利用期を迎える中、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用を進め、人工林の再造林を図るとともに、木材利用を拡大することは、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、林業・木材産業の活性化を通じて、地域経済の活性化にもつながります。
こうしたことを背景として、2021年6月、木材利用促進の対象を公共建築物から、民間建築物を含めた建築物一般に拡大するための法改正が行われ、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として、10月1日に施行されました。
法施行と同時に、「建築物木材利用促進協定制度」を制定。
内容は、建築主や建築物に関係する事業者・団体が建築物の木材利用促進に関する構想を実現できるよう、国や地方自治体と協定を締結できる制度です。
その第一号として国土交通省と公益社団法人日本建築士会連合会が「木造建築物の設計・施工に係る人材育成等に関する建築物木材利用促進協定」を締結。同連合会の構想によると、木造建築物の設計・施工の人材育成や普及促進で連携し、木材利用の促進に貢献を目指しています。
中大規模木造設計セミナーの開催、「木の建築賞」等の表彰制度を全国7ブロックで巡回実施し、川上から川下まで連携した木造建築技術者の育成。このほかに、都道府県各建築士会と地方自治体との協定の働きかけも実施。セミナーについては、2024年度までに全国で1,000人以上の受講をめざいています。
一方、国は同連合会の構想達成に向けて、講師の派遣、取組みの周知・広報に関する協力、自治体との協定締結等の連携促進についての支援等を行っています。有効期限は2025年3月31日までで対象は全国。狙いとしては木造建築に強い建築士人材を育てていく方針です。
こうした動きもあり、木造について知識を蓄えた建築士から、木造建築へのさまざまな提案がなされています。国としても同制度を活用し、多くの団体との木材利用促進の締結を果たし、官民連携で進めています。その中で、民間企業の木造の技術開発に注目が集まっています。2021年12月には一般社団法人ウッドデザイン協会も設立され、会長には、国立競技場を設計した建築家の隈研吾氏が就任。ゼネコンからは株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)、ハウスメーカーからは住友林業株式会社が参加しています。
木造の技術開発ではさまざまなものがあげられますが、現在、特に注目されているのがCLT(直交集成板)です。
構造は単純で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。
最近では、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室等に導入されています。
さらに、CLTとRC造のハイブリッド建築により、さらなる高層化をめざす施工例も実現されています。
国もCLTの利用促進を進めていく方針で、政府の「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」では国土交通省や、林野庁の支援取組み状況も報告されている。
同会議の資料によると、CLTの活用は年々上昇傾向にあり、竣工件数は、2021年度に累計で710件強に達する見込みです。
こうした背景を俯瞰してきて、本日は竹中工務店の中高層木造ハイブリッド建築にあらたな技術展開のリリースニュースをお届けです。
木による付加価値向上技術「KiPLUS®(キプラス)」
竹中工務店は、木による付加価値向上技術として「KiPLUS®(キプラス)」シリーズを新たに展開します。
従来からの保有技術である「燃エンウッド®」シリーズ、「T-FoRest®」シリーズに、当シリーズを加えた3シリーズで展開し、中高層木造ハイブリッド建築の普及、国産木材の活用に取り組むとともに、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
今回シリーズ化する「KiPLUS」は、従来のRC造やS造の架構システムの一部に木を使用することで、遮音・耐震などの性能の一部を補完する設計技術です。
RC造、S造に木を組み合わせる新架構システムにより、これまで以上に木材活用を推進することが可能です。
このたび、「KiPLUS」シリーズの第1弾として「KiPLUS WALL(キプラス ウォール)」を開発し、第三者機関の構造性能評価を取得しました。
「KiPLUS WALL」はS造またはRC造の建物に木の耐震壁(CLT壁)を配置し、CLT壁にも地震力などを負担させる架構システムです。
架構システム全体で地震力に対する必要な効力を発揮することで、従来より柱や梁の断面サイズをスリム化し、計画の自由度が高まるとともに環境負荷の低減に寄与します。
また、木材使用により、内装材として使用できる・施工性が良い、という意匠性や高施工性を付与することができます。
すでに4件の実績があり、現在5件を施工中です。
KiPLUS WALL S造の事例
KiPLUS WALL RC造の事例
3つのシリーズについて
「KiPLUS」シリーズ
従来のRC造やS造の架構と木を組み合わせることにより、遮音・耐震などの性能を架構の素材(鉄筋コンクリート・鉄)と共に補完する設計技術。
「燃エンウッド」シリーズ(2013年から展開)https://www.takenaka.co.jp/solution/environment/moenwood/
中高層木造ハイブリッド建築を実現するにあたり、多くの場合、耐火建築物とすることが求められます。「燃エンウッド」シリーズは、柱・梁・壁といった構造部材に使用されている鉄筋コンクリートや鉄骨のかわりとなる耐火木造部材。
「T-FoRest」シリーズ(2015年から展開)
https://www.takenaka.co.jp/solution/environment/t-forest/
木の部材により既存建物への耐震補強を行う技術。
これまで、耐火集成木材の「燃エンウッド」を2013年の竣工プロジェクトから18件適用してきました(そのうち2件は施工中)。また、耐震補強技術「T-FoRest」は7件の適用実績があります。
竹中工務店は、森林資源と地域経済の持続可能な好循環「森林グランドサイクル※1」を構築し、中高層木造建築の普及と市場の拡大を目指した活動を進めています。
今後は、3つのシリーズによる耐火木造技術や中高層木造技術を通じて、木造・木質建築の普及と国産木材の活用に取り組むとともに、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
※1
森林グランドサイクル活動は、木のイノベーション・木のまちづくり・森の産業創出・持続可能な森づくりの4つの領域からなります。様々なステークホルダーと共に推進することで、森林資源と地域経済の持続可能な好循環を実現します。
おわりに
しかし、政府や民間企業でも木材利用の機運が高まっている中でも、課題は山積しています。
みなさまご承知のように「ウッドショック」があり、同時に建材が高騰化し、材料全般がインフレ化している。建材メーカーの中でも、現在の情勢に耐え切れず、値上げを公表する潮目は変わり始めたばかりです。
そこで、CLT材はRC造やS造と比較すると、コスト的には不利であり、耐火関連の法規制の関係もあり、事業者側はCLTの採用に戸惑いの声もあります。つまり、耐火時間を定めた建築基準法施行令では15階以上は、3時間の耐火性能を求めている点も高層化が進まない理由の一つと指摘する意見もあります。
政府は建築の木造化を進めたい意向だが、コスト高騰をめぐり、事業者、利用者、投資家という不動産業界の三者の間では、CLT採用に向けてそれぞれ思惑があるのが実情。
投資家サイドから考えれば、不動産投資では短期間で収益を上げたいところだが、物件がコスト高になればそれが実現できないということになる。しかし、一方、ユーザーから見ると、「木のぬくもりは癒し」という声は人情というもの。
実際、CLTの耐久性は、RC造と同等と言われつつも、木造の減価償却資産の耐用年数は、RC造やSRC造と比較すると、半数以下になっており、これが金融機関の査定部からすると資金調達に課題がある訳です。
このように課題も多いが、それでも政府としては、木材の利用促進に変更はなく、2022年度のCLT関連予算概算要求にはさまざまな要望が掲載されている。
たとえば、林野庁は都市部でもCLT等の木材需要の拡大を図るため、CLT製造事業者と設計・施工者等の連携によるモデル的な建築実証や土木分野への利用等に関する技術開発への支援を。
また、国土交通省はカーボンニュートラルの実現に向け、炭素貯蔵効果が期待できる木造の中高層住宅・非住宅建築物を対象とする優良なプロジェクトへの支援をそれぞれ書き込まれている。
さらに、林野庁では、地域材利用のモデルとなるような公共建築物の木造化・内装木質化に対し支援することも要求しています。
対象は、教育・学習施設関係、医療・社会福祉施設や、観光・産業振興関係などの各施設があげられており、今後、民間施設に加えて、公共施設でも、CLT材が導入されるケースが数多くなるでしょう。
今後は政府としてはCLTの設計者と施工者の担い手を積極的に増やす方針であり、また、CLT単独で建築工事を実施するよりも、竹中工務店のようにRC造等とのハイブリッド建築を実施するケースが今後の建設トレンドと言えるでしょう。
本日も読んでいただき、ありがとうございました。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□株式会社竹中工務店
リリースニュース:https://www.takenaka.co.jp/news/2022/07/03/
□林野庁 https://www.rinya.maff.go.jp/
□国土交通省 https://www.mlit.go.jp/