概要
ウッドショックの事態のながれをみつめ、そうした困難な世界情勢にある中で、脱炭素の街づくりを推進する熊谷組と住友林業の10階建て耐火木質ビルを着工というリリースニュースをお届けします。
第3次ウッドショックと国産材の今
この数十年に2度発生している「ウッドショック」は、世界的に木材の需給がひっ迫し、価格が高騰する状況を指します。
日本国内では2021年春から始まった今回の事態は、「第3次ウッドショック」といえます。
第3次ウッドショックもとはアメリカを発端としています。
郊外型住宅の建設が堅調だったアメリカでは、コロナ禍でテレワークの定着やコロナ対策の金融緩和策が住宅ローン金利引き下げにつながったことが、起因。
また、DIYブームなども木材需要の急増の要因ともなりました。
こうした需給ギャップが、世界に波及したのが「第3次ショック」の全容のようです。
しかし、米国の景気回復にともない、欧州や中国の木材需要も増加傾向を強めます。
中国は、産業用丸太の世界最大の輸入国で、その動向は木材の世界市場の今後に大きな影響を及ぼすものとみられています。
さらに、コロナ禍は林業分野にも影響を与え、一時、木材生産が大きく落ち込みます。
製材工場の稼働率も低下、建築資材の供給が絞られたこともの要因の1つです。
また、海上コンテナ不足などで世界の物流網が停滞したことも一因でもあります。
新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年春頃には世界の貿易がストップしました。
しかし、その後状況は一変して輸送量が急拡大し、海上輸送用コンテナが不足する状況になった結果、輸送コストが急騰。
また、断続的に発生した各国での港湾ロックダウンや、21年3月に発生したスエズ運河での大型コンテナ船座礁事故も、木材物流のネックとなりました。
今回の事態は、アメリカでの需給のひっ迫が発端ですが、昨年5月に最高値を記録した同国の材木先物取引価格(シカゴ取引所)は、その後最高値の1/3程度まで急落。
住宅建設件数の伸びが沈静化したこと、木材生産量が順調に回復したことなどを受けたもので、当時は木材需給のひっ迫は徐々に解消に向かい、今年3月頃には以前の状況に戻っているのではないか、との楽観視もありましたが…
2月24日、ロシア軍によるウクライナ侵攻で一変します。
ロシアは、世界全体の木材輸出量の2割ほどを占める森林資源大国です。
ウクライナも木材輸出国ですが、開戦により両国からの木材供給は滞ることに陥る。
ロシアの場合は、国内事情による生産減などではなく、欧米諸国を中心とした経済制裁に伴う供給減少なので、膠着化する戦況をみる限り、早期に経済制裁が解除される可能性は低い、いや、ほぼないと思われます。
日本自体は、総量としては、ロシアから多く木材・製材を輸入していた訳ではわりませんが、建築用のカラマツの合板は、その強度(耐震性)から需要が多く、日本の木造住宅の多くに使用されています。
長期的にみても、世界市場でのロシアからの木材供給停滞が続けば、その影響は市場価格として目に見えてきます。
国内の現状をみましょう。
輸入価格の高騰を受け、日本で木材価格が上昇を始めたのは、昨年の3月頃。
例えば、代表的な木材製品である「すぎ正角(乾燥材 厚10.5cm×幅10.5cm×長3.0m)」の今年4月の価格(全国)は、13万800円/m3で、前年同期に比べ73.7%も値上がりしています(農林水産統計)。
昨年3月には6万円台だったものが、8月にかけて13万円台まで倍以上に急騰し、その後は高止まりが続いています。
こうしたウッドショックの影響を被るのが、新築の木造住宅です。
現場では、「コロナ前に3,000万円で建てられた家が、3,800万円必要な状況」といわれるほど、建材の調達で納期の遅れも招いています。
日本は、木材の6割を輸入に依存しています。
世界的な相場高騰に悩まされているところに、さらに輸入価格の上昇に直結する円安相場がのしかかります。
このように輸入木材の高止まりが長期化する中で、見直されているのが、地産地消できる「国産材」です。地方によっては、地元産の木材と価格が逆転し、置き換えが進むような状況も生まれており、木材自給率自体は、改善傾向にあります。
林野庁調べによる2020年の自給率は41.8%となり、前年比較で4.0ポイント伸びました。
2011年から10年連続で上昇していて、40%台を回復したのは、48年ぶりのこと。
ただ、主としてバイオマス発電に使う燃料用の需要増が貢献したもので、建築・木工などの素材としたの建材の国内生産量は、前年に比べて7.7%減っています。
この突発的な供給ショックが「国産材の安定供給・安定需要の確保に取り組むことを通じて、海外市場の影響を受けにくい需給構造を構築する」(21年度の政府「森林・林業白書」)ことができるのかどうか、国内林業をとりまく、労働環境や担い手の問題、輸送インフラの整備、山林所有の権利整備、森林の保全管理など山積する課題は多く、長期的なヴィジョンで循環できる林業の復興が求められています。
こうした困難な世界情勢にある中で、脱炭素の街づくりを推進する熊谷組と住友林業の10階建て耐火木質ビルを着工というリリースニュースをお届けします。
中大規模木造建築ブランド「with TREE」
株式会社熊谷組(東京都新宿区 以下、熊谷組)と住友林業株式会社(東京都千代田区 以下、住友林業)は6月27日、札幌市で地下1階地上10階建ての耐火木質ビル(仮称:KAGAプロジェクト)を着工しました。2023年6月竣工予定です。
2021年3月ブランド発足以降の様々な取り組みの中で、両社が共同企業体で施工するのは今回が初めてです。
上層階は木質ハイブリッド集成材を使用し木のぬくもりを感じられる空間を提供します。
木は光合成で大気中のCO2を吸収し、炭素として留め置き、伐採し木材製品になっても炭素を固定し続けます。
中大規模建築の木造化・木質化を通じて脱炭素社会の実現に貢献します。
「with TREE」について
顧客と共に(with)、コミュニティと共に(with)、木と共に(with)、高い価値と良い効果をもたらす木の建築物を協力して創りあげていくのがブランドの由来。
コンセプトは「環境と健康をともにかなえる建築」です。
都市の建築に「木」が生む新しい価値を提供し、中大規模建築の木造化・木質化を推進します。
熊谷組と住友林業は2017年の業務・資本提携以来、8つの分野で分科会を立ち上げ協業に取り組んできました。
中大規模木造建築分科会は2021年に本ブランドを発足させ資材の調達から建築コンサルティングまで展開しています。
鉄骨・RC造の大規模建築に関わる熊谷組の知見と、森林や木材に関わる住友林業の知見を融合し新たな価値を提供していきます。
建築概要
(仮称)KAGAプロジェクトの建築地は観光やビジネス、流行の中心地である札幌市中央区南1条通に面しています。
1~2階はカフェ、3~8階は事務所、9~10階は住居になる予定です。
木材活用による環境配慮に加え若者へのIT関連の支援等を通じ、街の新たなコミュニティ創出を目指します。
7~10階に木質ハイブリッド集成材を使用します。
1時間耐火で大臣認定を取得(日本集成材工業協同組合 以下、日集協)している「鉄骨内蔵型」の耐火集成材で、鉄を熱から守る構造です。
鉄骨造は中高層建築で構造設計と確認申請が木造より容易で、コスト削減と高い汎用性を実現します。
1時間耐火構造の木質ハイブリッド集成材有孔梁*1も採用。
日集協が大臣認定を取得している木質ハイブリッド集成材の1時間耐火認定梁に、住友林業が開発した梁貫通技術を加えて新規認定を共同取得しました。
5月には大臣の認定範囲を拡大*2しました。
梁に直接配管を貫通し、建築費全体の削減と汎用性を拡大します。従来の木質ハイブリッド集成材梁と異なり、デザイン上の制約が少なく意匠性が向上します。
*1 住友林業「木質ハイブリッド集成材有孔梁が1時間耐火構造の大臣認定取得」プレスリリース(2021年11月)https://sfc.jp/information/news/pdf/2021-11-01.pdf
*2 住友林業「木質ハイブリッド集成材有孔梁、1時間耐火構造の大臣認定範囲拡大」プレスリリース(2022年5月)https://sfc.jp/information/news/pdf/2022-05-31.pdf
柱と梁の被覆木材には北海道産のカラマツを採用し、国内林業の活性化につなげます。
構造躯体に使用する木材は39.9m3、炭素固定量は31.8t(CO2ベース)です。これは計画地(139.05m2)の約7.2倍にあたる広さのカラマツの森が吸収するCO2量*3に相当します。このような施設は街を森にかえ、脱炭素社会を実現します。
*3 出典:林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/mieruka.html
事業主 株式会社 Beppo Corporation
計画地 北海道札幌市中央区南1条西2丁目1‐2、1‐5
構 造 鉄骨造(7~10階に木質ハイブリッド集成材を使用)
階 数 地下1階 地上10階
設 計 株式会社アトリエオンド一級建築士事務所・株式会社桜設計集団構造設計室
施 工 熊谷組・住友林業共同企業体
敷地面積 139.05m2
延床面積 1,102.42m2
熊谷組は2010年5月に環境省から「エコ・ファースト企業」に認定されて以来、「脱炭素社会への移行」、「循環型社会の形成」、「生物多様性への配慮」に関する取組みの約束を掲げています。
約束達成に向け、事業活動でのCO2の削減、再生可能エネルギーの積極導入、大幅な省エネに貢献する「ZEB」の普及促進に取り組んでいます。
また熊谷組は事務所などの「中大規模木造建築」建設の受注施工のために木質部材の開発や技術開発を行っています。
今後も都市と森がつながる脱炭素の街づくりに貢献していきます。
住友林業は本年2月にSDGsの目標年である2030年を見据え、脱炭素社会に向けてあるべき姿を事業構想に組み込んだ長期ビジョン「Mission TREEING 2030」を発表しました。
木を伐採・加工、利用、再利用、植林という住友林業の「ウッドサイクル」を回すことで森林のCO2吸収量を増やし、木材の活用で炭素を長く固定し続けます。
今後も木質部材の調達や製造、設計・施工にいたるまで、「木」を扱うプロフェッショナルとして社会のあらゆるニーズに対応していきます。
CMのごとく…「木を育ています」
そして、何十年後に「街を作っています」というフレーズも聞こえてきそうです。
本日も読んでいただき、ありがとうございました。
参考・関連情報・お問い合わせなど
経済産業省
どうなったウッドショック;価格の高止まりが需要を抑制?
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20220502hitokoto.html
リリース記事:
https://www.kumagaigumi.co.jp/news/2022/pr_20220630_1.html
≪リリースに関するお問い合わせ先≫
株式会社熊谷組 コーポレートコミュニケーション室 小坂田
TEL:03-3235-8155 / Eメール:kg pr@ku.kumagaigumi.co.jp
住友林業株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 鈴木 佐藤
TEL:03-3214-2270 / Eメール:ccom@sfc.co.jp
≪物件に関するお問い合わせ先≫
株式会社熊谷組 建築事業本部 中大規模木造建築推進室
TEL:03-3235-8722
住友林業株式会社 住宅・建築事業本部 建築事業部 建築部
TEL:03‐3214-2535
≪部材に関するお問い合わせ先≫
住友林業 木材建材事業本部 木構造推進室
TEL:03‐6626‐2910