概要
3Dプリンター建築の黎明期にある今、着実に歩みをすすめる株式会社大林組の未来の建設ヴィジョンとスタートアップながらも革新的な3Dプリンター住宅メーカー、セレンディクス株式会社の想いをみつめます。
「3Dプリンター実証棟」にこめた3Dプリンターによる建築物の複層階化と大規模化の実現性
株式会社大林組(東京都 以下、大林組)は、セメント系材料を用いた3Dプリンターによる建築物として、国内初の建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得した構造形式を用いた「(仮称)3Dプリンター実証棟」(東京都清瀬市 大林組技術研究所内)の建設に着手しました。
3Dプリンターは、建設業において複雑な曲面などデザイン性の高い形状を製造できるだけでなく、材料を現地に運ぶだけで済み、建設時のCO2排出量の削減や、自動化施工による省人化などの効果が期待されるため、構造物の部材や小規模な建築物の製作に利用する事例が増えています。
しかし、日本において一定の規模以上の建築物を建設するためには、構造物が建築基準法に適合していることの確認(建築確認)を取得しなければならず、鉄骨や鉄筋、コンクリートなどの指定建築材料を使わない場合は、建築物の安全性を証明するため個別に国土交通大臣の認定が必要となります。
大林組は、鉄筋や鉄骨を使用しない、3Dプリンター用特殊モルタル※1や、超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート®」※2による構造形式を開発し、2019年に国内最大規模となるシェル型ベンチを製作するなど、技術開発を進めてきました(スギブログ掲載https://www.innovation.sugitec.net/22952/)。
そして、今般、本構造形式を用いた、地上構造部材を全て3Dプリンターによって製作する構造物として、一般財団法人日本建築センターの性能評価審査を受け、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣認定を取得した建築物「3Dプリンター実証棟」の建設に着手しました。
本施設は、プリント範囲内で最も少ない材料で最大の空間が得られるようにし、壁を複数層としてケーブルや配管ダクトを配置することで、通常の建築物と同様に利用することを想定したデザインとしています。
設備図を含めた建築確認や、スリムクリートを材料とする個別評定も取得し、2022年11月の完成を予定しています。完成後は耐久性、構造および環境性能の評価を行うとともに、3Dプリント技術のPR施設として公開します。
そして、今回の大臣認定の取得で得たノウハウを活用することで、複数階や面積規模を拡大した構造物の建設につなげるとともに、将来的には3Dプリンターによる宇宙空間での建設など幅広い可能性を追求していきます。
「3Dプリンター実証棟」の建設に関する特長は以下のとおりです。
国内で初めて地上構造部材を全て3Dプリンターにより建設
部材は基礎と屋上階の床版を除いて、外部で製作し組み立てるのではなく、建設地に3Dプリンターを据え付けてプリントします。
床版もあらかじめプリントしたデッキを架設してから、スリムクリートを充填(じゅうてん)する構造形式のため、全ての地上構造部材を3Dプリントにて製造した国内初の建築物となります。
さらに外部階段を設けるとともに、床版の施工後には、3Dプリンターを屋上階へ据え付けて、2階建てを想定した際の立ち上がり壁を模したパラペットの打込み型枠をプリントするため、技術的には複数階を建築できます。
3Dプリンターの特長を生かした曲面形状の構造床と複層壁を製作
床版は、複雑な曲面形状の部材を製造できる3Dプリンターの特長を生かし、床版に生じる力が分散するように、力の流れに沿った形状の突起(リブ)で補強しています。
また、空調、洗面、照明などの設備も実装するため、壁は構造体層と断熱層、設備層 (ケーブル保護層※3や空調ダクト層※4)からなる複層構造としています。3Dプリントによる躯体工事と同時に断熱、設備工事の一部を行うことで工期短縮および省力化を実現します。
3Dプリンターによる施工に合わせた設計フローを整備
今回、建築・構造・設備の各設計と施工を連携するために、3次元で製造したモデルを一貫利用した設計・製作フローを構築するとともに、プリント経路の自動生成や傾斜部の積層性、障害物との干渉状況を確認するソフトウェアを開発しました。
これにより、デザインされた形状に、建築物として必要な情報を付加し製作するまでの時間を短縮することができます。
大林組は、お客様の多様なニーズに応えるデジタルファブリケーション技術※5の一つとして、複雑なデザインや強度・耐久性を備えた構造物を実現できるセメント系材料を用いた3Dプリンター建設の研究をさらに進め、実用化をめざします。
※1 3Dプリンター用特殊モルタル
デンカ株式会社(東京都中央区)が開発した特殊なセメント系材料を用いたモルタル「デンカプリンタル®」。
建築物や土木構造物に必要な強度と耐久性を持つとともに、吐出直後でも形状が崩れることなく維持されるチキソトロピー性と呼ばれる性質があり、型枠を使わずに部材の製作が可能。
※2 スリムクリート
大林組の保有技術である常温硬化型のモルタル材料で、圧縮強度180N/mm²、引張強度8.8N/mm²、曲げ強度32.6N/mm²を達成できる。
さらに、引張強度や曲げ強度が高いだけでなく、高い引張靭性を有するため、単独でも構造体としての使用が可能な材料。
スランプフローは600mm程度あり、自己充填性を有するため、3Dプリンター用特殊モルタルで製作した3次元曲面状の打込み型枠にも密実に充填できる
※3 ケーブル保護層
ケーブル用配管として一般的な電気工事におけるPF管と同様の役割を果たし、設備増強や更新時も利用可能
※4 空調ダクト層
中空層に空調空気を通し、壁面を冷やす/暖めることで、壁面放射冷暖房が可能。
今回は実験用空調として採用。3Dプリンター用特殊モルタルによる放射冷暖房の定量的な能力については継続検証予定
※5 デジタルファブリケーション
デジタルデータをもとに創造物を製作する技術のこと。
3Dスキャナーや3D CADなどを使い、アイデアや個人の身体データなどをデジタルデータ化した上で、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械で読み込んで造形するシステム。
セレンディクス ✕ KAP 地震災害に強い未来の住宅の施工実現を目指し始動
国内初の3Dプリンター住宅sphere※を完成させたセレンディクス株式会社(兵庫県西宮市 以下 セレンディクス)は、駅や庁舎、スタジアムやホテルなど大小様々な規模の建築物を手がけ多くの受賞実績を持つ株式会社KAP(東京都 以下、KAP社)と、「世界最先端の住宅開発に関する基本合意書」を締結。
sphereの安全性、堅牢性を確保するための業務提携を開始することをお知らせします。
両社提携による最初の取り組みとして、今夏には国内3Dプリンター住宅としては初となる耐震強度実験を予定。
既にセレンディクスでは住宅建築において重要な耐震性機能における特許を2件出願していますが、本試験により自社の耐震強度における技術力を更に強化、3Dプリンター住宅の耐震領域において世界最高水準を目指します。
業務提携の背景と目的
セレンディクスは2018年、“世界最先端の家で人類を豊かにする”を理念に掲げ創業。
ファーストミッションとして、30年の住宅ローンに縛られることなく、高性能かつ安全・安価な家を誰もが手に入れられる社会の実現を目指しており、2022年には愛知県小牧市において国内初となる3Dプリンター住宅sphereの施工を23時間12分で成功。世界26ヶ国59媒体で報道されるなど話題となりました。
しかしながら、日本国内の3Dプリンター住宅における施工実績に関しては海外と比較すると大きく遅れをとっており、国内ではセレンディクスのみが唯一の施工実績を持ちます。
3Dプリンター住宅のグローバルコンソーシアムでは欧米のナレッジに注目が集まりがちですが、3Dプリンター住宅の耐震の構造設計に関しては日本が大きな知見を持ち得る領域です。
予定されている耐震実験では、震度7の地震を想定した実大実験(実大加力試験)を実施。
構造設計に造詣の深いKAP社協力の下、3Dプリンター住宅の更なる技術力の向上をはかり、安全性・堅牢性においても世界最先端の家を実現します。
※ 3Dプリンター住宅 sphere
3D プリンターを用い24 時間以内に球体の形状の家を創ることにより物理的にも最も強く自然災害より家族を守る家となる。
球体の為、最も表面積が少なく材料の低減ができ30坪300万円の価格帯を実現する。
また構造体強度・耐火性・耐震性・断熱性・美しさの5つの要素を持つ多機能素材の開発を行う。
大規模な自然災害時には緊急避難先の仮設住宅として3Dプリンターを用い24時間以内で家を創ることができる。
おわりに
海外に目を向ければ、巨大な3Dプリンターで家を“出力”している。
「WIRED」記事の日付は2018年だが、すでに実用化に動き出している。
エルサルバドルやボリビア、ハイチといった途上国の人々のために住宅を建設してきた米国、サンフランシスコを拠点に活動するNPOのNew Storyが建設技術関連のスタートアップICONと共同で、10カ月をかけて3Dプリンターで家をつくる方法を開発。
完成したプリントハウスは350平方フィート(約32.5平方メートル)の構造物は地域の住宅基準にも対応しており、経済的な余裕がなく貧困層に住まいを提供することができない国や地域での活用が期待されている。
従来の方法では住宅100軒を建てるのに8カ月かかり、1軒当たりの費用は約6,000ドル(80万ほど)。
3Dプリンターの場合、コストは4,000(54万ほど)ドルに下がる。そして、完成までに必要な時間はたったの1日。
より早く低コストな工法として途上国の人々の暮らしを激変させる可能性を秘めたプロジェクトは3Dプリンターハウスに住むのはシリコンヴァレーのエンジニアや未来主義の人々ためのものでなく、この住宅は世界でも特に貧しく、頭上にある屋根を最も必要としている人たちのための家である。
3Dプリンターは、2009年に基幹技術の特許が切れたことが量産につながり、一般に普及。
当時は第2の産業革命を引き起こすと言われ、建築分野でもさまざまな方法で応用が進んだ。
3Dプリンターを使った建築市場は、当初は中国の盈創建築科技(WinSun)が独占していた。
同社は14年、セメントと砂とリサイクル素材の混合剤で住宅10軒を1日で建てることに成功したほか、6階建てのアパートやオフィスビル、延べ床面積11,000平方フィートのマンションなどを「印刷」によってつくってみせている。
このころから、業界他社も建物を3Dプリントするというアイデアに興味を示すようなり、インクの代わりにモルタルを注入したプリンターを使って、小型住宅やアパート、ツリーハウスなどをつくる試みが行われた。
3Dプリンターを使えば、樹脂やプラスチックのフィラメントで簡単に住宅模型ができ、現場で巨大なマシンを使えば、コンクリートやそのほかの建材で実物大の家を建てられる時代に…
海の向こうでは既に到達している。
…日本は歩みはじめたばかりだ。
本日も読んでいただき、ありがとうございました。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□大林組
https://www.obayashi.co.jp/
プレスリリース
大林組 コーポレート・コミュニケーション室 広報課
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220610_1.html
□セレンディクス株式会社 https://serendix.co
プレスリリース
https://www.atpress.ne.jp/news/315656
□株式会社KAP
https://kapstructure.wixsite.com/engineers
□WIRED
https://wired.jp/