こんにちは。朝と夜の冷え込みがかなりキツくなってきました。今年も残り2週間ちょっと。益々忙しくなってきている会社様も多いと思いますが、最後まで体調に気をつけつつ、平成最後の仕事納めまで走っていきましょう。
本日は、日本建築学会発行の建築雑誌の12月号記事に興味深い論考がありましたので、そちらを少し掻い摘んでご紹介したいと思います。
出典:建築雑誌
デジタルツインズであるBIMモデルに現状は反映できているのか
業界ではかなり普及しているBIMですが、BIMモデルの特長として建物の様々な属性情報が付与されています。このデータは建物の竣工後に建築主に引き渡されアーカイブとなり、今後の建物の維持管理情報の基幹になります。
これは現状の建物と全く同じ情報のデジタルな双子ということで、デジタルツインズとも呼ばれます。デジタルツインズは建物の環境管理と効率的な経営をしていくマネジメントの方法論、所謂ファシリティマネジメント(FM)に役立ちます。
その他得られるデータは今後の設計にも貴重となり、最終的に都市のデータに還元されていくというのが理想とされていますが、記事では現実はそうはなりそうにない、との見解が述べられています。
そうなりそうにない問題とは?
現状としては建築物はターン・キー契約等を除いて、竣工時点で最終形になっているとは限らず、実際の運用開始までに設備・内装・家具工事などが別契約、別途工事されることが一般的。
また、入居者の都合等で竣工直後に改修をすることも珍しくありません。さらに建物の入居者、用途が変わるとそれに付随しての改修や、長期的な視点では大規模修繕等も発生。時代のニーズに合わせたシステムの導入もあります。
これらの事象に合わせて、当然竣工時のデジタルツインズは更新を余儀なくされます。更新しないとそのデータには全く意味のないことになってしまいます。なので、このデータを逐一更新して管理・運営する主体が、建築主・建物所有者のもとで必要になります。
これは従来の紙図面中心文化でも同じことで、常に更新し保たれるのが本来の姿でしたが、実態としては竣工図や検査済証すら無くしているケースも多くあるのが現状です。
ここでライフサイクルコストを見てみましょう
業界の人なら誰しもこんな図解を見たことがあるかと思いますが、施工などにかかるイニシャルコストは、ライフサイクルコストから見ると氷山の一角でしかありません。
実際の運用にはイニシャルコストの5~10倍ものコストを要することになります。これは先に上げた情報(データ)に関しても全く同じで、情報メンテナンスには人的・金銭的コストは同様にかかります。
とはいえ、最新の情報にしていたとしても、歴史的な建築物に関しては修復や再建をするにあたり、過去の修復で異なる意匠を施されているケースがある場合は、時代考証をおこない史実を解釈した上で再現するべき意匠を決定するというプロセスも必要となります。
なので修復や再建を検討するにあたり時点時点での最新情報が必要となるため、単純な最新の建物情報が使える状況というのはかなり限定的なものでもあるとしています。
細部まで作り込まれたBIMモデルが最適な維持管理モデルではない
これは単純に完成度を細部まで高く作り込んだBIMモデルが維持管理モデルになる、という考え方の定義が一部の国や地域でみられるそうですが、実際には膨大な労力を注いで完成度を高めた所で、包含されない情報というのは想像を遥かに超える範囲に渡って存在しています。
というのも、設計者や管理者がモデルに対して記述できる情報ばかりではないということがあります。建物の住所や電話番号などの基本情報ひとつとっても引き渡し後に決まる場合もありますし、製品マニュアルや保証書のような含めづらい情報も存在します。
FMに活用するためには、その辺りの明確な領域を設定する必要があるということです。後は、建物のセキュリティ上で記述が望ましくない情報もあることから、誰に対してその情報を閲覧可能にするのか?というアクセスコントロールも必要になります。
その他、昨今のIoT技術の適用で様々なビッグデータを取得できるようになりましたが、その中ではプライバシーに関わってくるものもあり、その測定データの権利は誰なのか?生データ、編集データの権利など含め明確な結論は出ていないとのことです。
長い期間をかけ成功事例を積み重ねる
データはこれまでは記録としての側面が大きかったが、これからはデータそのものが大きな価値を持つようになるというパラダイムシフトが起きており、膨大なデータにはまだ見ぬ価値があるのは疑いようがないが、それは誰しも自由にリスクなく使えるデータであるということを意味していません。
論考の締めでは、データが産む価値についての議論は始まったばかりで、他にも様々な分野で起きているテクノロジーによる技術革新に比べて、長い期間を要するのは明らかですが、50年100年を生きるスローメディアであり社会的責任を伴う存在である建築分野は、自動的に解消されることが無い故に小さな課題解決を作り込み、成功事例を積み重ねることが大事としています。
まとめ
BIMデータがあれば維持管理が効率化されるというのは、BIMを活用したテクノロジーが出てきた際にネットのニュースなどでもよく見かけることがありますが、それもライフサイクルの図ではありませんが、氷山の一角の部分だけを見ているのと同じということですね。
実際にそのデータを管理していくには膨大なコストや、取得する情報量が増えるほどにその権利の問題などが発生するという部分は氷山の海中の部分にあたる訳です。
単純に効率化されるというものでなく、まずはその部分に目を向け運用していくことを考えないと、後々に思っていたよりもコストが膨大すぎた!となったり、結局は死んだデータになったりということになりかねません。
データが価値を持つかどうかは運用する側にかかっています。当たり前のことですが今一度認識しておきたい所ですね。