国土交通省は、建築物の定期調査・点検における検査項目や方法、結果の判定基準、調査結果表に関する規定を改正し、令和7年7月1日から施行する新たな告示(令和6年国土交通省告示第974号)を発表しました。今回は、今回の改正内容とその背景、業界や弊社のような調査をおこなっている企業にとっての影響についてご紹介いたします。
改正の背景と目的
建築基準法に基づき、特定行政庁が指定する特定建築物や建築設備について、定期調査・検査・点検の実施が義務付けられています。昨今、技術の進展やデジタル化の波により、従来の目視検査だけでは捉えきれない精度や効率が求められるようになりました。
そこで、調査業務の合理化と新技術の活用を促進するため、既存の基準を見直し、より柔軟かつ先進的な検査方法を取り入れることが目的とされています。
主な改正内容のポイント
改正告示では、従来の「目視」による検査方法が「目視又はこれに類する方法」に変更されました。具体的には、
- 目視検査の拡充
赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)をはじめ、ファイバースコープ、双眼鏡、可視カメラ、拡大鏡など、従来の目視と同等またはそれ以上の情報を取得できる検査機器を用いた方法が認められるようになりました。 - 運用開始の柔軟性
改正告示のうち、目視の定義を拡大する部分については、公布日以降から運用を開始しても問題ないとされ、各現場での早期適用が期待されます。
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「目視又はこれに類する方法」の意義
この改正は、単に手法を変えるだけでなく、技術革新を積極的に取り入れるという姿勢を示しています。
- 情報の正確性向上
最新の検査機器を使用することで、従来の目視検査では見逃されがちな微細な劣化や問題点をより正確に把握できる可能性があります。 - 効率化と負担軽減
従来の肉眼による検査と比較して、デジタル機器を活用することで作業効率が上がり、報告者や検査実施者の負担を軽減する効果が期待されます。 - 柔軟な運用
各事業者が自らの判断で、必要に応じた検査機器を選択できるため、現場の多様な状況に応じた柔軟な対応が可能となります。
業界全体への影響とデジタル化の進展
今回の改正は、建築行政全体のデジタル化推進を一層支える動きとして期待されます。
- 先進技術の浸透
無人航空機や赤外線カメラなど、先進技術が現場での活用を促進し、検査の効率が向上します。 - 基準の見直しによる安心感
定期調査・検査の方法が見直されることで、建物の安全性確保に対する国や自治体、利用者の信頼が一層高まることが期待されます。
調査会社のメリットとデメリット
メリット
- 業務効率の向上
最新の検査機器を導入することで、従来の作業による検査に比べ、作業時間の短縮と効率化が期待できます。 - 情報精度の向上
高精度なデジタルデータの取得により、調査結果の信頼性の向上、またデータの保取り扱いの効率性が増し、クライアントへの安心感を提供できます。 - 競争力の強化
新技術をいち早く取り入れることで、業界内での差別化が図れ、他社との差別化ポイントとなります。
デメリット
- 初期投資の増加
最新の検査機器やソフトウェアの導入、及びそれに伴う人材の教育など、初期投資が必要となる可能性があります。 - 運用の調整期間
新たな検査手法に完全に移行するまで、社内での運用体制の整備やスタッフの習熟に時間がかかる場合があります。 - 基準適合の課題
新技術導入に伴い、各検査現場での基準適用方法や結果の評価方法の統一が求められるため、内部での調整が必要となるでしょう。
まとめ
今回の定期調査報告に関する改正は、建築物の安全性確保に向けた技術革新とデジタル化の流れを象徴するものであり、業界全体に前向きな変革を促すものです。
改正告示で「目視又はこれに類する方法」が公式に認められることで、赤外線調査や各種検査機器を用いたデジタル技術の利用が明確な基準の下で進められます。これによって、既に技術を導入している企業は、自社の取り組みをさらに強化できる一方で、未導入の企業にとっては早期の対応が求められ、業界全体で技術の標準化が進むと予想できます。
□国土交通省
建築基準法に基づく定期報告制度について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000039.html