3Dプリンティング×耐震補強:インフラ維持の新たな可能性
大成建設株式会社は、3Dプリンティング技術を活用した巻き立て耐震補強柱の性能確認実験を実施し、その成果を公開しました。本実験は、内閣府が推進する「スマートインフラマネジメントシステムの構築」の一環として行われたもので、3Dプリンティング技術を用いた耐震補強の実用化に向けた世界初の試みとなります。
この技術は、既存の柱に対して3Dプリンターで補強層を形成し、高強度コンクリートを充填することで、耐震性の向上を図るものです。特に、外部支保工を不要とし、生産性を向上させる点が大きな特徴となっており、今後のインフラ補修・補強の在り方を大きく変える可能性を秘めています。
耐震補強に3Dプリンティングを活用する理由
老朽化する社会インフラの耐震補強は、近年ますます重要性を増しています。日本国内には、建設後40年以上が経過した建造物が多数存在し、地震に耐えうる強度を確保するための補強工事が急務となっています。しかし、従来の補強工法には以下のような課題がありました。
- 施工時の支保工設置が必要 → 現場作業の手間とコストが増加
- 補強作業に多くの時間を要する → 工期が長期化し、交通規制などの社会的影響も大きい
- 補強材の重量が増すことで設計自由度が低下
こうした課題に対応するため、大成建設は3Dプリンティング技術を活用し、迅速かつ効率的な耐震補強を可能にする技術開発を進めています。
実証実験の内容と技術的なポイント
今回の実証実験では、以下の最新技術を組み合わせ、耐震補強の効果を検証しました。
- 3Dプリンティング技術による外殻構築
3Dプリンターを用いて、柱の外殻部分を短繊維補強モルタルで積層。補強筋を回避しながら成形することで、従来の施工方法では困難だった精密な耐震補強が可能となりました。 - 高流動コンクリートの活用で支保工を不要に
外殻と既設柱の間に高流動コンクリートを充填し、耐震性を強化。外殻自体が高強度であるため、従来必要だった外部支保工を省略し、施工の省力化とコスト削減を実現しました。 - バサルトFRTPロッドによる補強
巻き立て補強筋には、鉄筋よりも軽量かつ高耐久なバサルトFRTPロッドを使用。鉄筋の1/5の重量ながら、高強度・耐腐食性・低磁性といった特性を持ち、より柔軟な設計が可能になりました。
実験結果と今後の展開
実験の結果、3Dプリンティング技術とバサルトFRTPロッドを組み合わせた補強方法により、従来の鉄筋コンクリート柱と比較して耐震性能が大幅に向上することが確認されました。
さらに、SIPのプログラムディレクターである東北大学大学院の久田真教授からは、「この技術は世界と競争できる水準にあり、今後、イノベーションを加速させるための共通ルール作りが重要になる」との評価を受けました。
大成建設は今後、SIPでの関係機関との連携を深め、技術の標準化と社会実装を推進していく計画です。具体的には、
- インフラ補強の効率化 → 実際の施工現場への導入を進め、現場の生産性向上を目指す
- 品質評価基準の確立 → 技術の普及に向けた規格化と標準化を進める
- 持続可能なインフラ整備への貢献 → 省力化・低コスト化・高耐久化を実現し、全国の耐震補強工事に展開
まとめ 〜 3Dプリンティング技術が変えるインフラ補強の未来
本実験は、耐震補強工事の新たな可能性を示す画期的な取り組みとなりました。従来の耐震補強では、施工の手間やコストが課題でしたが、3Dプリンティング技術を活用することで、より迅速かつ精密な補強工事が実現可能となります。
今後、社会インフラの老朽化が進む中で、この技術が全国各地の耐震補強工事に採用されることで、安全で持続可能な社会づくりに大きく貢献すると期待されます。
技術の進化がもたらす建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、今後も加速していくでしょう。大成建設のこの革新的な取り組みが、世界基準のインフラ補強技術として確立されることを期待したいと思います
この内容に関するお問い合わせ
□大成建設株式会社
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