概要
大成建設株式会社(以下、大成建設)は、CO2排出量収支マイナスを実現した環境配慮コンクリート「T-eConcrete®/Carbon-Recycle」※1と3Dプリンティング技術「T-3DP®(Taisei-3D Printing)」※2のノウハウの融合により、内側から光と空調を透過させ、同時に桜の樹皮を模した独創的なデザインを表現した高機能な柱部材を世界で初めて開発し、現在建設中の「大成建設グループ次世代技術研究所」(埼玉県幸手市)の研究管理棟(ゼロカーボンビル)※3に初適用というリリースニュースをお届けします。
光と空調を透過するデザインの柱をゼロカーボンビルに実現
大成建設は、CO2排出量の削減と設計・施工における生産性向上を図るため、これまで環境配慮コンクリートと3Dプリンティング技術について、それぞれ独自に開発・適用を進め実績を重ねてきました。
この度、これらの技術開発および実施適用により得られたノウハウを活用し、環境配慮コンクリートを用いた3Dプリンティング建材の一つとして、高機能な柱部材を開発し、実工事に初適用しました。
この柱部材は、CO2排出量の大幅削減を可能にした優れた環境性能に加え、波形の凹凸模様や陰影により独創的なデザインを表現しています。
また、複数層を重ねた波形の凹凸模様をずらし、波形の起伏が交互になるように配置することで隙間を作り(図1参照)、隙間を透過する漏れ光や染み出し空調によって、従来の建材にはないまったく新しい意匠性と機能性を兼ね備えています。(図2参照)
写真1 大成建設グループ次世代技術研究所の柱への適用状況
本技術の特長
CO2排出量収支マイナスの柱部材を実現
3Dプリンティングに用いるT-eConcrete®/Carbon-Recycleをベースとした環境配慮コンクリートは、排気ガスより回収したCO2をコンクリート内部に固定するため、一般的なコンクリートと比較してCO2排出量を最大106%削減できます。
これにより、次世代技術研究所が目指す、CO2排出量が実質ゼロとなる「ゼロカーボンビル」を実現する要素技術の一つとして、実工事へと適用されました。
独自アルゴリズムで光や空調を透過させる柱部材を製作
3Dプリンティングで形成する凹凸模様の形状特性を独自アルゴリズムで最適化することで、表面に多数の細孔を有する独特なテクスチャーの部材製作を可能にしました。内側から細孔を透過する漏れ光は明かりと影の演出による独創的な意匠性をもたらし、柱部材からの染み出し空調は快適な空間の創出を実現します。
柱部材の設計にはコンピュテーショナルデザイン※4を活用し、意匠・機能などの多様なニーズに対応した最適なデザインを選定しています。同時に、次世代技術研究所の建設地である幸手市で親しまれている「桜」を表現するデザインとして、凹凸模様の強弱で生まれる陰影により、桜樹皮の風合いを取り入れました。
柱部材の強さを考慮し施工を合理化
通常の柱の施工では、型枠にコンクリートを打込む際に生じる側圧に耐えられるよう型枠を外側から補強する支保工※5を設置します。これに対し、本工法では3Dプリンティングで製作した部材そのものの強さと部材内部に埋め込んだ補強材によって側圧に耐えられるよう部材設計を行うことで、外側の支保工を不要としました。
この合理化により、実働1日以内、作業人員3人で現地施工が完了し、従来と比較して次工程への受け渡しまでの日数を8日短縮することができました。
今後、大成建設は、環境配慮コンクリート「T-eConcrete®」と3Dプリンティング技術「T-3DP®」を組み合わせることで環境に配慮した3Dプリンティング建材の設計・施工におけるバリエーション拡大とその実用化を進め、更なるCO2排出量の削減と生産性向上を図るとともに、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
図1 3Dプリンティングに用いる凹凸模様の形状特性と柱部材の製作状況
図2 柱部材の断面図
※1
環境配慮コンクリート「T-eConcrete®」:
セメントの使用量を抑制し、通常コンクリートと同等の強度、施工性を保持しながら、CO2排出量の削減を可能にするもの。
セメントの代わりに加える産業副産物などの配合状況により、建築基準法対応型、フライアッシュ活用型、セメント・ゼロ型およびCarbon-Recycleの4タイプがあり、目的用途により適切な仕様のコンクリートを選択できる。(詳細技術概要:https://www.taisei.co.jp/t-econcrete/)
参考資料:2023年8月24日公表 国内初 カーボンリサイクル・コンクリートを建築物の構造部材に適用(https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2023/230824_9624.html)
※2
3Dプリンティング技術「T-3DP®(Taisei-3D Printing)」:
2018年からコンクリート構造物の新たな施工法として、型枠を使わずに複雑な形状の建材を短時間で自動製作し、省人化施工が可能な建設用3Dプリンティング技術「T-3DP(Taisei-3D Printing)」の開発を進めてきた。3Dプリンティング用材料のバリエーションとして環境配慮コンクリートをベースとした配合も開発し、多機能什器に適用するなどしている。
参考資料:2022年12月19日公表 国内初 建設用3Dプリンティングに適用可能な環境配慮コンクリートを開発(https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/221219_9183.html)
※3
ゼロカーボンビル:
建築物のライフサイクル(調達・施工・運用・修繕・解体)におけるCO2排出量が実質ゼロとなる建物。大成建設グループ次世代技術研究所の工事では、新設の研究管理施設で国内初となるゼロカーボンビルの実現を目指している。
参考資料:2023年5月8日公表 大成建設グループ次世代技術研究所の建設に着手(https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2023/230508_9508.html)
※4
コンピュテーショナルデザイン:
人間では処理できないような複雑な諸条件に適したデザインを導き出す手法。コンピューターの計算能力を活用し候補となる形状を大量に生成し、シミュレーションや点数化アルゴリズムを用いて調和のとれたデザインを見つけ出す。
※5
支保工:
コンクリートを型枠に打込んでから硬化するまでの間に、コンクリートが型枠から流出したり、型枠が変形したりするのを防ぐために設置する仮設構造物。
資料引用:大成建設
おわりに
型枠支保工を3Dプリンティングで製作した部材で代用させ、工期短縮と省人化をもはかれたわけですが、一般人の感想を記すとすると、耐震性や耐久性に一抹の心配を抱きますが、今後の検証が待たれます。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□大成建設株式会社
リリースニュース
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/240822_10051.html