概要
株式会社ニコン・トリンブル(以下、ニコン・トリンブル)と八千代エンジニヤリング株式会社(以下、八千代エンジニヤリング)は、AIを活用し橋梁などのコンクリート構造物におけるひび割れなどの劣化状況の継続監視を可能にする「劣化の進行評価技術」を共同開発というリリースニュースをお届けします。
データの劣化評価でインフラ維持管理の高度化・効率化へ
本技術を使用することで、橋梁などのコンクリート構造物の異なる2つの点検時期の撮影画像から、ひび割れなどの劣化進行がAIにより可視化され、角落ちなどの異常を検知できることが確認されました。
本技術により、デジタルカメラなどでコンクリート構造物の画像を撮影することで、劣化進行を把握できるようになります。肉眼などによる確認、過去の損傷図との比較など現行の属人的な作業がデジタル化され、インフラ維持管理の高度化・効率化が可能となります。ニコン・トリンブルおよび八千代エンジニヤリングは本技術の実装に向け、2024年度は技術検証を拡大していくことを決定しました。
開発背景
橋梁などの道路構造物は5年に1度の定期点検が義務付けられています。
その点検は肉眼による近接目視を中心に実施されており、損傷図の作成や、過年度の点検結果との比較などによる劣化の進行把握などは人的に行う必要がありました。
現在において、AIによる損傷検知や損傷図の作成システムなどは活用され始めていますが、一方、劣化の進行評価においては、人的な作業ゆえに見落としや進行状況の判断ミスなどが起こりえる状況があります。
また土木業界や建設コンサルタント業界は、日本の人口減少に伴い人手や担い手不足の懸念がますます深まり、このようなインフラ構造物の点検などを担う作業員や点検員が不足しています。
ニコン・トリンブルおよび八千代エンジニヤリングはこのような状況に注目し、劣化診断(劣化の進行評価)を人の手によらずに定量的・適切に分析・評価することを目指して本技術の開発を進めています。
本技術の概要
ドローンに搭載されたカメラを含むデジタルカメラで撮影したコンクリート構造物の画像から、AIと画像処理技術を用いてひびわれ損傷箇所とその大きさを定量的に把握し、ひびわれ損傷の劣化進行具合を画像と数値で視覚化する技術を開発しました。
本技術の開発にあたっては以下の課題がありました。
- 過年度と現時点で入力画像の画質の違い(画素分解能、明るさ、色合いの他、ブレ・ボケ・あおり角・被写界深度・光学レンズ収差などの有無に起因する画像全体の鮮鋭度の差)により、損傷の検出結果が異なってしまうこと。
- 比較を行う範囲の切り出しポイントが微小にずれることで、損傷の進行状況の評価結果が変わってしまうこと。
- あおり補正、画像結合時の微小な計算誤差により、単純な画像同士の引き算では損傷の進行状況を測り難いこと。
上記の通り、過年度の継続監視を行う上で、撮影条件に変動が起こることは避けられません。
そこで本技術は、撮影位置/アングル/環境光/撮影機材/画素分解能(画素分解能は極力一致させるよう配慮を行う)は固定していない条件下で劣化進行の把握が可能なことを条件として開発しました。
□損傷検出技術:SightFusion for Desktop
(点検支援技術性能カタログ技術番号:BR010035-V0224)
(NETIS登録番号:KT-230019-A)
□劣化進行把握技術:劣化進行の状況は、サイズ可変のメッシュ領域に区切って解析と定量化を行い、
ヒートマップおよびヒストグラムにより視覚化された結果により把握する。
(1)ひび割れ同士を重ね合わせて進展評価をすることは、上に記載した課題をクリアするための計算量の増加が生じるため、メッシュ単位で区切った領域単位でひび割れ面積を計測することにより、領域ごとの劣化の進展度合いを評価する。
(2)メッシュ解析は細かく区切った部分領域に対して行い、コンクリート構造物全体はひび割れ幅ごとの総長(ヒストグラム)で評価する。
左:メッシュ解析によるひび割れ増減の把握(ヒートマップ)、右:ひび割れ幅階級ごとの総長経年比較(ヒストグラム)
判別された箇所の詳細画像(角落ちを見つけられた例)
今後の検討内容
本技術は、2019年(令和元年度)から2023年(令和5年)まで、多摩市が管理する橋梁を対象とした定期点検、長寿命化修繕計画の改定、補修設計業務の包括的民間委託中で実証し、効果が確認されています。
今後は、社会実装に向け、橋梁に加え、高速道路高架橋や鉄道など様々なコンクリート構造物においての検証を実施し、本技術の有効性を確認していきます。
資料引用:ニコン・トリンブル
おわりに
クラック劣化調査をAI解析する手法やアプリケーションは隆盛の状況です。
橋脚などのインフラの長期維持管理には、前回調査での報告書データとの比較は修繕判断をする上での重要な判断材料です。この度のニコン・トリンブルと八千代エンジニヤリング共同開発の「劣化の進行評価技術」は劣化を解析しつつ、過去の調査との「比較」に焦点を当てた技術といえるでしょう。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□株式会社ニコン・トリンブル
リリースニュース:https://www.nikon-trimble.co.jp/info/news_detail.html?infoid=342
URL : https://www.nikon-trimble.co.jp/
□八千代エンジニヤリング株式会社
リリースニュース:https://www.yachiyo-eng.co.jp/news/2024/07/post_810.html
URL : https://www.yachiyo-eng.co.jp/