概要
鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、岡部株式会社(以下、岡部)、株式会社丸久(以下、丸久)、株式会社楠工務店(以下、楠工務店)と共同で、コンクリート構造物の施工に不可欠な型枠工事を省力化する「型枠一本締め工法」※1(以下、本工法)を開発。在来工法が普及し始めた1950年代以降、画期的な技術革新がなかった型枠工事において、約70年ぶりの新工法というリリースニュースをお届けします。
型枠一本締め工法®
本工法は、在来工法に比べて、使用するパイプの軽量化と本数の削減、ならびに施工方法の簡素化により、歩掛※2を約20%向上できます。これにより、技能者の身体的負担を大幅に軽減するとともに、歩掛の向上は作業時間の短縮に直結するため、本年4月から強化された時間外労働時間の上限規制への対応にもつながります。
さらに、運搬由来のCO2発生量を約50%削減できるほか、パイプなどに採用したアルミ材はリサイクル率が高いことから産業廃棄物を削減できるなど、環境負荷の低減にも貢献します。
鹿島建設は既に、全国10件以上の現場に本工法を導入し、その効果を確認しています。このうち、東京都内の現場では、パイプ荷揚げの総重量が約56%低減、歩掛が約20%向上しました。
鹿島建設は今後、本工法をより多くの現場に展開することで、建設業が抱える諸課題の解決に貢献していきます。また、共同開発社を通じて、本工法に使用するアルミパイプ、パイプジョイント、フォームタイの販売を本格化してまいります。
※1 特許およびNETIS(新技術情報提供システム)申請済
※2 作業を行う場合の作業手間を数値化したもの
アルミ製パイプ1本で締付けが可能な「型枠一本締め工法」
開発の背景
型枠工事は、建物の躯体などの型を構築する工事で、建設工事に必要不可欠な工程です。
このうち柱・壁工事では、上下2本1組の鋼製パイプ(1本3.5m、9.56kg)を技能者が手で支えながらフォームタイで締め付けていきます。この在来工法は1950年代に普及が始まり、現在でも一般的に使用されています。
近年、同工事に従事する技能者の高齢化や若年入職者の減少、外国人労働者の増加が顕著であり、技能者の身体的負担の軽減に加え、誰でも簡単・確実に施工できる工法が求められていました。
そこで鹿島建設は、パイプの軽量化と施工方法の簡素化により、これら諸課題を解決する新工法の開発に着手しました。
本工法の特長
“軽い・簡単・早い”を実現する本工法の特長は、以下のとおりです。
新型アルミパイプの採用により、在来工法の鋼製パイプと比べて、大幅な軽量化(鋼製: 2.73kg/m → アルミ製: 1.62kg/m)と高強度化を実現。これにより、柱・壁工事においては、パイプの使用本数が在来工法の2本1組から1本に半減
新型アルミパイプを繫ぐパイプジョイントの開発により、かぶせて嵌め込むだけの簡単施工を実現
ロの字型の新型フォームタイを開発。下のボルトに新型アルミパイプを預けられるため、締付けの際にパイプを片手で支える必要がなく、両手で安定した作業が可能
柱・壁工事における型枠工法とパイプ重量の比較
本工法の導入効果
本工法の導入により期待される効果は、以下のとおりです。
- 使用するパイプの軽量化・本数の削減および施工方法の簡素化により、歩掛が向上。さらに、技能者の身体的負担を大幅に軽減
- 工事の進捗に合わせてパイプを他階へ移設する際に、大きな効果を発揮。そのため、現場内での転用回数が多いほど導入メリットが増大
- 組立、解体時にフォームタイがパイプを支えるため施工時の安全性が向上。使用するパイプの軽量化・本数の削減により、運搬に伴う作業の安全性も向上
- パイプの使用本数の半減により、運搬に伴うCO2排出量を約50%削減。さらに、リサイクル率の高いアルミ製パイプを使用することで、環境負荷の低減に寄与
鹿島建設はこれまでに、社有施設「ドーミー南長崎アネックス」新築工事(東京都豊島区)など、全国10件以上の現場に本工法を導入しました。
同工事では、柱・壁・床の型枠工事全体を在来工法と本工法の2分割で施工、型枠面積約7,500m2に本工法を導入しました。その結果、在来工法と比べ、パイプ荷揚げの総重量が約56%低減、歩掛が約20%向上し、本工法が生産性の向上に寄与することを確認しました。
使用するパイプの軽量化・本数の削減により、技能者の身体的負担が大幅に軽減
今後の展開
鹿島建設は今後、現場でコンクリート打設工事を行う土木・建築工事に本工法を広く展開することで、
本年4月から強化された時間外労働時間の上限規制に対応していくとともに、担い手不足や労働生産性の低下、施工時に排出されるCO2量の削減など、建設業が抱える諸課題の解決に貢献していきます。
資料引用:鹿島建設
おわりに
型枠工事は、建物の強度や耐震性に不可欠な基礎を作るための重要な工程です。
鉄筋コンクリート建築の一般的な工法であり、大規模建物から一般住宅まで幅広く行われます。
型枠工事の主な工程は以下の通りです。
【拾い出し】:施工図を確認し、コンクリート打設部の寸法や形状を特定し、必要な資材の数量を発注します。
【加工】:拾い出しで発注した部材を使い、ベニヤ板や桟木などの加工材を作成します。
【墨出し】:現場で型枠設置位置に印を付け、施工ミスを防ぎます。
【建て込み】:墨出しの印を基に加工材やパネルを慎重に建て込みます。水平器で垂直精度を確認しながら進めます。
【締め付け】:フォームタイや単管パイプで型枠を固定します。コンクリート打設時の圧力に耐えられるよう、しっかり締め固めます。
【コンクリート打設】:専門業者が生コンクリートを型枠内に流し込みます。打設中も型枠職人が立ち会い、問題がないか確認します。
【型枠解体】:コンクリートの強度が確認できたら、日数をかけて型枠を少しずつ解体します。
【躯体完成】:型枠解体後、型枠工事が完了し、清掃を行って仕上げ工事に移ります。
以上の工程で、「締め付け」工程を省力化する「型枠一本締め工法」を鹿島建設を盟主とする現場の人々が知恵を出し合った賜物です。省人化できた分を慎重に次の工程のコンクリート打設へ注力できるという相乗効果も見込めるでしょう。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□鹿島建設株式会社
リリースニュース:https://www.kajima.co.jp/news/press/202405/31a1-j.htm