概要
鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、製造時にCO2を吸収して固まることで、CO2排出量をゼロ以下にできるカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM®」(シーオーツースイコム)の普及、展開を進めています。これを加速するため「CO2-SUICOM」にグレードを設定というリリースニュースをお届けします。
カーボン低減型のグレードを新設 CO2吸収コンクリートの普及・展開を促進
CO2-SUICOM(E)を用いた大型ブロック擁壁(幅2m×高さ1m×厚さ0.35m)
具体的には、コンクリート1m3当たりのCO2吸収・固定量が100kg以上となる従来のカーボンネガティブ型を「CO2-SUICOM(P)」とし、100kg未満となるカーボン低減型を「CO2-SUICOM(E)」とします。
このたび、「CO2-SUICOM(E)」を用いた大型プレキャスト(PCa)コンクリート製品(大型ブロック擁壁)を開発しました。
これまでは、「CO2-SUICOM(P)」を用いた舗装用ブロック等の小型プレキャスト(PCa)コンクリート製品を中心に市場展開してきましたが、「CO2-SUICOM(E)」を設定したことで製品種類が飛躍的に拡充、インフラ建設市場により広く展開することが可能となります。
鹿島建設は今後、「CO2-SUICOM(P)」と「CO2-SUICOM(E)」を用いた製品開発を進めることで、CO2吸収コンクリートの市場拡大および普及を図り、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。
CO2-SUICOMの概要
「CO2-SUICOM」は、コンクリートの主原料となるセメントの半分以上を特殊な混和材「γ-C2S」(ガンマシーツーエス)と産業副産物に置き換えることで、セメント製造時に排出されるCO2を削減します。さらにコンクリートの製造段階で強制的にCO2を供給する「炭酸化養生」※1を行うことで、コンクリートが固まる過程でγ-C2Sが大量のCO2を吸収・固定します。
今後は、CO2の吸収・固定量に応じて設定した2種類のグレードを展開していきます。
※1:CO2を封入した槽内でコンクリートを養生し、安定した環境でCO2を吸収・固定させる方法
※2:一般的なコンクリートとCO2-SUICOMを比較した際のCO2吸収・固定量を基準にしています
※3:(P)PREMIUM、(E)ECONOMY
開発の背景
すでに製品を展開している「CO2-SUICOM(P)」は、コンクリート製造時のCO2排出量を実質ゼロ以下、つまり人間の生産活動から排出されるCO2を削減させることに世界で初めて成功した環境配慮型コンクリートです。
他の環境配慮型コンクリートにはない「CO2の吸収・固定によるカーボンネガティブの実現」という特長を持ち、主に建築工事で舗装ブロック(インターロッキングブロック)として採用されてきました。
従来の舗装ブロックなどの製品は、部材の全断面を炭酸化することで CO2の吸収・固定量を最大化し、カーボンネガティブを実現していました。
そうした中、環境問題に対する社会的な要請と、環境配慮型コンクリートの認知度向上に伴い、建築工事のみならず、より多くのコンクリート量、大型の製品を使用する土木工事への導入ニーズが高まってきました。
しかし、製品が大型化し、部材の断面が大きくなるとCO2の吸収・固定に時間を要するため、製造可能数量が減少し、コスト上昇につながります。そのため、これまでの製品は小型のブロック状のものに限られ、製品種類の拡充、特に大型製品への採用が課題でした。
大型PCa製品の開発
鹿島建設は、大型製品の開発において、カーボンネガティブには至らないものの、CO2の吸収・固定によりCO2排出量の削減に貢献でき、CO2削減量とコストのバランスの取れた材料設計を採用しました。
コンクリートがCO2を吸収する範囲(炭酸化深さ)は、炭酸化養生の時間とともに大きくなりますが、CO2を吸収する速度は初期が速く、その後は徐々に遅くなっていきます。
そのため、CO2吸収の最も効率の良い養生時間を算定することで、CO2吸収量と生産コストのバランスの取れたカーボン低減型の「CO2-SUICOM(E)」を新たに設定しました。
今回、大型PCa製品の検討モデルとした大型ブロック擁壁では、製品1個当たり、セメント材料の置換により約64kgのCO2削減となり、断面の約40%が炭酸化したことによるCO2吸収・固定量は約8kg、現行の製品に比べて合計約72kgのCO2削減を実現しました。また価格は、従来の「CO2-SUICOM(P)」に比べ、33%抑えられる試算結果となりました。
CO2を吸収した範囲(炭酸化深さ)※紫色の部分は炭酸化していない部分
養生時間とCO2吸収速度の関係のイメージ
従来の大型PCa製品には、ひび割れや破損を防ぐことを目的とした鉄筋(用心鉄筋)を配置します。
有機系繊維
一方、「CO2-SUICOM」は、炭酸化養生を行うことでコンクリートのpHが中性域になることから、鉄筋腐食のリスクを考慮して無筋のブロックを展開してきました。
今回の大型PCa製品の検討モデルでは、用心鉄筋を有機系繊維の配合で代替しました。種々の有機系繊維の中から材質、繊維の径や長さ、コスト等を勘案して適切なものを選定するとともに、配合する繊維の量を最適化しました。
大型ブロック擁壁の製造性の実証
大型PCa製品の製造性を実証するため、PCa製品メーカーであるケイコン株式会社(社長:荒川崇、京都市伏見区)の協力を得て、同社の大型ブロック擁壁に「CO2-SUICOM(E)」を採用した製造実験を行いました。
大型ブロック擁壁の製造工程と完成した製品の品質を検証した結果、量産が可能であることを確認しました。
大型ブロック擁壁の製造工程
① 「CO2-SUICOM(E)」の配合でコンクリートを練り混ぜ、型枠に打設
② 蒸気養生を実施
③ 脱型後、炭酸化養生を行い完成
今後の展開
鹿島建設は今後、「CO2-SUICOM(E)」を用いた大型PCa製品を実際の工事に導入する計画です。また、本製品だけでなく、複数のプレキャストコンクリート製品メーカーと連携して新しいPCa製品を開発し、「CO2-SUICOM」の全国展開を本格的に進めていきます。
鹿島建設は引き続き、CO2吸収・固定技術の開発を進め、より幅広い製品に展開していくことで、脱炭素社会への移行に貢献していきます。
環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM®(シーオーツースイコム)」
https://www.kajima.co.jp/tech/c_eco/co2/index.html#!body_02
資料引用:鹿島建設
おわりに
大型PCa製品の製造性を実証に京都のケイコン株式会社様が協力されている記事を拝見しますと、同じ京都府下で“共汗”する企業として環境に寄与できることに喜びを感じますね。
さて、大型PCa製品の検討モデルで、従来の用心鉄筋を有機系繊維の配合で代替しているのですが、
この「有機系繊維」とは何なのか?簡単にしらべてみると以下のような繊維を使用しているのだろうと考えられます。
有機系繊維とは、炭素を含む有機化合物で構成された繊維の総称。
天然由来のものと人工的に合成されたものがあり、以下のように分類されます。
□天然繊維
・植物繊維: セルロースを主成分とする繊維。綿、麻、リネン、ジュートなどが代表例。
・動物繊維: タンパク質を主成分とする繊維。絹、ウール、カシミヤなどが代表例。
□人工繊維
・再生繊維: 天然繊維を化学処理して作る繊維。レーヨン、キュプラなどが代表例。
・半合成繊維: 石油などの化石燃料を原料として作る繊維。ナイロン、ポリエステル、アクリルなどが代表例。
・合成繊維: 石油などの化石燃料を原料として、化学合成によって作る繊維。ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素繊維などが代表例。
さすがに天然繊維を用心鉄筋に代用するのは贅沢ですから、強度・耐久性に優れている人工繊維や
強度・耐久性と、吸湿性・通気性を兼ね備えたものが多い半合成繊維、軽量で、形態安定性に優れている合成繊維をリサイクルされた素材を用心鉄筋に使用されているのでしょう。
まさに「しまつ」の精神が生きていると感じます。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□鹿島建設株式会社
リリースニュース:
https://www.kajima.co.jp/news/press/202405/9c1-j.htm