概要
鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、建設業界の課題である「人手不足・熟練労働者不足への対応」、「生産性向上」、「労働災害撲滅」を目的に、工事現場の安全性および生産性を飛躍的に向上する、建設機械の自動運転を核とした自動化施工システム「A4CSEL®※1」(クワッドアクセル)を開発し、2015年から工事に導入。現在、秋田県で施工中の成瀬ダム堤体打設工事(以下、成瀬ダム工事)においてA4CSELによるCSG※2打設を本格的に行っており、その効果を有人運転の場合と比較した結果、省力化および生産性の向上とともに、施工時のCO2排出量の抑制にも大きな効果があることが確認したというリリースニュースをお届けします。
※1 (Automated/ Autonomous/Advanced/ Accelerated Construction system for Safety, Efficiency, and Liability) ※2 Cemented Sand and Gravel:現地発生材(石や砂れき)とセメント、水を混合してつくる材料
安全性・生産性の向上に加え、環境配慮型施工システムへ
全部…無人機
A4CSELを導入している成瀬ダム堤体打設工事
A4CSELの特長
A4CSELは、これまで労働集約的、定性的に行われていた建設工事を、1.作業の標準化、2.運転の最適化、3.計画の最適化により、最小人員数かつ高い生産効率で実施できることが大きな特長です。
人が作業データを送ると、建設機械が定型的な作業や繰返し作業を自動で行います。
このため、必要最小限の人員で複数の機械を同時に動かすことができ、施工の安全性および生産性が飛躍的に向上します。
鹿島建設では、機械を計画通りに動かすことで、計画通りの生産を行う製造工場に見立てた「建設現場の工場化」を目指し、成瀬ダム工事を含め、これまでに6件の現場にA4CSELを導入しています。
A4CSELのコンセプト(開発当初)
A4CSELの導入効果
現場での稼働実績を基に、A4CSELの労働生産性を評価しました。
ここでは、1.同じ生産量を従来よりも少ない人員で得る、
2.同じ人員数で従来よりも多くの生産量を得ることを評価の尺度としています。
1.省人化効果
2022年度の成瀬ダム工事におけるCSG打設は、15台の自動化建設機械を4名で管制しました。
2023年度は自動化機械を増強し、最大20台を4名で管制する計画です。
2.作業計画の最適化による効率化
成瀬ダム工事での自動ブルドーザによるCSGまき出し作業(敷き広げる作業)は、AI手法、シミュレーションによって最適化された作業計画をリアルタイムで作成し、その計画通りに行います。
このため、有人運転よりも少ない動作でまき出しを行えることが大きな特長です。
2022年度の同ダム工事での自動ブルドーザによるCSGまき出し量は254.4m3/hと、有人運転128.6m3/hの約2倍でした。同ダム工事では2022年10月に月間打設量の国内最高記録を62年ぶりに更新し、これにはA4CSELによる生産性の向上が大きく貢献しています。
3.精度向上による効率化
(1)振動ローラの走行精度による効率化
転圧作業時の自動振動ローラは、計画経路に対して±10cmの精度で走行できます。
一方、有人運転では通常±20~50cmの精度となり、転圧時のラップ幅のばらつきの差から、最小転圧レーン数に対して実際のレーン数が多くなるケースが発生します。
このため、自動運転では有人運転に比べて、走行距離が15~25%削減され、同じ割合で作業時間も短縮します。
(2)ブルドーザのまき出し作業の効率化
2.で示した効果とは別に、同じ動作をする場合でも、自動ブルドーザの走行距離は、有人運転に比べて約1/4となることが分かりました。
これは、同じ計画で運転する場合でも、有人運転はまき出し箇所から距離をおいてオペレータによる目視確認が必要である一方、自動運転はセンサで動くため、最小限の走行距離・時間での作業が可能となるためです。
4.燃料消費量、CO2排出量の抑制
A4CSEL の導入により、単位時間あたりの打設量の増大、建設機械の走行距離の短縮が実現します。
これにより単位生産量に対する燃料使用量が減り、CO2排出量の抑制につながります。
成瀬ダム工事における自動運転でのまき出し作業1m3あたりの燃料使用量を有人運転と比較したところ、約40~50%削減できたことを確認しました。
CO2排出量の抑制や燃料費上昇への対応が重要視される現状を鑑みると、
上記は労働生産性の向上とともにA4CSEL導入の大きな効果と言えます。
今後の展開
今後、鹿島建設では、自動化施工率を高めるため、自動化建設機械の機能および性能のさらなる向上、
ならびに対象機種の増加により、A4CSELを多くの現場に継続的に導入していきます。
併せて、現場導入により見えてきた課題や問題点を解決し、施工時のCO2排出量削減につなげることで、環境負荷低減にも貢献していきます。
工事概要
工事名 : 成瀬ダム堤体打設工事(第1期)
工事場所 : 秋田県雄勝郡東成瀬村椿川地内
発注者 : 国土交通省東北地方整備局
施工者 : 鹿島・前田・竹中土木特定建設工事共同企業体
規模 : 台形CSGダム 堤高114.5m、堤頂長755m、堤体積485万m3
工期 : 2018年5月~2023年5月
資料引用:鹿島建設
おわりに
鹿島建設は前2023年3月期の売上高が2兆3915億円(前期比15%増)で、営業利益については従来計画(2月14日に発表した修正計画)を25億円上回る1235億円(同0.1%増)。
「建設事業の工事が順調に進捗した。海外も開発事業が牽引した。」
鹿島の内田顕取締役は、5月15日に行われた決算説明会で胸を張った【東洋経済オンラインより】。
このように盤石な経営環境をうけ、各地の施工現場での自動化建設機械の推進は進行し始めるのだろうか。鹿島建設は月や火星で「生活」する時代へと移行するコアテクノロジーによる縮小生態系の確立を目指すという壮大な構想を京都大学と共に研究を進めている。
月面の縮小生態系を敷くにしても、基盤となる広大な整地が確実に必要となる。この自動化建設機械の推進はいずれ宇宙へと舞台を変えていくにちがいない。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□鹿島建設株式会社
リリースニュース:
https://www.kajima.co.jp/news/press/202306/8c1-j.html