大成建設✕豊橋技術科学大学✕大成ロテック
高速道路に実装可能な無線給電道路「T-iPower Road」の実証を開始。

sugitec

概要

国内外の「無線給電道路」事情を引用記事からはじまり、大成建設株式会社(以下、大成建設)は、国立大学法人豊橋技術科学大学(以下、豊橋技術科学大学)、大成ロテック株式会社(以下、大成ロテック)と共同で、走行中の電気自動車(以下、EV)に連続して無線で電力を給電できる道路「T-iPower Road」に関する実証実験を開始というリリースニュースをみつめます。


国内外の「無線給電道路」事情

EVの普及には、走行中に電池切れになる懸念を払拭する給電インフラの整備が不可欠になる。
ただ、調査会社の富士経済(東京・中央)によると、普通充電器や急速充電器など従来型給電インフラの国内導入実績は2021年時点で約3万7000台。
中国(約135万台)や米国(約10万台)に大きく水をあけられている。
国は公共充電スタンドを30年に15万基と、22年3月末時点の約5倍に増やす目標を掲げている。

停車中や走行中の無線給電が普及すれば、EVに大容量バッテリーを搭載しなくてもよくなる。
EVの小型化やコスト削減にもつながるとみられる。
走行中のEVへの無線給電を巡っては、東京大学やブリヂストンなども産学連携で研究を進めている。
海外ではイスラエルのエレクトレオンが実証実験に取り組んでいる。
富士経済は主要17カ国のEVに搭載される非接触充電機器が35年に約490万台と、21年の約420倍に急増すると試算している。(引用:日本経済新聞オンライン)

数値だけ見ても、ハイブリットとPHVが普及するガラパゴス化した国内市場は後塵を拝しているのは否めません。対して、EV先進国アメリカの「無線給電道路」事情は現実的な記事が聞こえてきます。

エレクトロン・ワイヤレスは、デトロイトの道路に電気自動車を充電するための1マイルの区間を建設している。同社によると、この道路は2023年までに、特別な受信機を取り付けた電気自動車に対して充電機能を提供するようになる。
充電インフラは、電気自動車の普及にとって大きなハードルとなっている。

ある新興企業が、電気自動車を走らせながら充電できるようにするアメリカ初の道路を建設中である。
イスラエルのテルアビブに拠点を置くエレクトロン・ワイヤレス(Electreon Wireless)社は、フォード(自動車メーカー)、DTEエナジー(公共電力企業)と協力し、2023年にデトロイトでワイヤレス充電技術を導入する予定です。同社によると、すでにスウェーデン、イスラエル、イタリアの道路に同社のインフラを実装しているという。

この充電区間は約1マイルで、デトロイトのミシガン・セントラル駅の近くに設置される予定。
フォードはこの廃駅を「モビリティ・イノベーション地区」に改造しようとしている。
ミシガン州も、このプロジェクトに190万ドル(約2億2000万円)を拠出する予定で、エレクトロン社はこの道路が2023年までに完全に機能するだろうと述べている。

この道路上では、走行中であっても停止中であっても、誘導充電と呼ばれるプロセスで電気自動車を充電することができる。誘導充電では、磁気を利用して、道路の下に埋められたコイルから電気自動車の下側にある特別な受信機に電力を伝達する。

アクシオス(ニュースサイト企業)は受信機の搭載に1台あたり3000ドルから4000ドル(約35万円から46万円)の費用がかかると試算している。エレクトロンはアクシオスに対して、価格を1000ドルから1500ドル(約11万5000円から17万3000円)に近づけたいと語っている。

充電インフラが電気自動車の普及にとって大きなハードルとなっていまることから、非接触の充電は航続距離への不安を和らげ、EVの普及を促進するのに大きく役立つと考えられる。
Insiderは以前、EVオーナーの5人に1人が、充電が「面倒だ」という理由でガソリン車に戻ってしまったと報じた。2021年のJDパワーのデータでも、電気自動車の電池残量に対する不安が、電気自動車の商業的成功を阻む主要な要因であることが判明している。

ミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事はプレスリリースで、「電気自動車の生産を増やし、消費者のコストを下げることで、モビリティと電化の未来をリードすることを目指している我々にとって、ワイヤレス路上充電システムは、持続可能性のためのパズルのピースになる」と述べている。

エレクトロンは、EVのワイヤレス充電オプションを宣伝しているいくつかの企業のうちの1つ。
Insiderは以前、このイスラエルの企業が、今後10年間で2075億ドル(約24兆円)に達する可能性がある市場に参入しようしている6つの企業のうちの1社であると報じた。

ワイヤレス充電のコンセプトは新しいものではない。
1986年、カリフォルニア州でPATH(Partners for Advanced Transit and Highways)プログラムの一環として、車道で走行する自動車にワイヤレス充電を行うテストが行われた。
近年では、アップルやサムスンなどの企業が携帯電話のワイヤレス充電を推進するようになっている。
しかし、ハードウェアが高価で扱いにくいことが判明したため、全体としてワイヤレス充電の取り組みは停滞している。

Insiderは以前、コーネル大学の研究者が、磁場の代わりに電場を使用する高速道路のワイヤレス充電プロセスの実現に取り組んでいると報じた。これにより、プロセスがより安価になり、より多くのエネルギーを供給できるようになると、主任研究者のクラム・アフリディは述べている。

[原文:A 1-mile stretch of road is being built in Detroit that can charge electric cars as they drive — if owners install a special receiver]引用 https://www.businessinsider.jp/post-250233

このように国内外の「無線給電道路」事情は黎明期にあるとはいえ、歩みの兆しは未来への励みとなります。それでは、大成建設からのリリースニュースをみつめていきます。

無線給電道路「T-iPower Road」

大成建設は、豊橋技術科学大学、大成ロテックと共同で、走行中のEVに連続して無線で電力を給電できる道路「T-iPower Road」に関する実証実験を開始します。

本実証実験により、高速道路への実装および中型車両や商用車が走行できる10kW無線給電道路に関する技術開発を加速させ、EVの長距離・連続走行を可能とする実用化システムの確立を目指します。

国内における年間CO2総排出量のうち、運輸部門のCO2排出量※1は約18%を占めており、そのうち自動車関連が運輸部門の約88%を排出していることから、自動車のEV化やそれに係る道路インフラ整備が運輸部門における低炭素化の切り札として注目されています。
しかし、EV化を進めるにあたり搭載するバッテリの容量・寸法・重量、充電時間、航続距離、コストなど車両本体のみならず、車両を走行させる道路インフラ設備についても解決すべき多くの課題があります。

このような背景のもと、大成建設らは、2012年より走行中のEVへ無線で電力を供給する道路の開発を開始し、2016年には1台の電源システムで延長約10mの道路に電力を供給できる電界結合方式※2の無線給電道路の試験道路を施工し、性能検証を行ってきました。
その成果として、走行中の小型EVへの3kW無線給電に成功するなど、長距離・連続走行が可能な無線給電道路の基本システム構築に向けてノウハウを蓄積してきています。

また、大成建設らはその培ってきた成果をさらに発展させるため、現在、国土交通省国土技術政策総合研究所「道路政策の質の向上に資する技術研究開発」の委託研究(2020年~2023年)に取り組んでおり、2023年までに商用車の通行が多い高速道路への実装を前提とした10kW無線給電が可能な道路の実用化システムの確立を目指しています。

本委託研究では、実証実験を通じて、高速道路において走行中のEVへの送電電力10kW・給電効率70%以上の給電の実現により、大型車両走行や中型車両、商用車の航続距離が大幅に伸延するなど、上記課題の解決に繋がることが期待されます。

【実証実験概要】

 実験期間:2021年8月~2023年12月
 実験場所:大成ロテック技術研究所
 実証内容:以下の項目について可能性を検証

① 最大10kW出力の高周波電源接続による走行中車両への無線給電の実現
② 電界結合方式による無線給電道路(延長約40m)の施工に基づく高速道路への実装

『無線給電道路』の特徴は以下のとおりです。(図1、図2、図3参照)

1. 安全で経済性に優れた仕組みにより連続して高効率で給電
電界結合方式による走行中のEVへの無線給電では、漏えい電磁界を抑えながら、少数の電源システムを用いることで、低コストで安全かつ効率的に連続して高効率での給電が可能となります。
具体的には、送電電極と高周波電源1台を接続した延長約40mの無線給電道路上を、走行中のEVは平均70%以上の受電効率で常に電力を受け取ることができます。

2. 施工性や維持管理に優れた舗装構造を実現
在来工法とほぼ同じ方法を用いて施工や維持補修・管理が可能で、従来の高速道路の交通量で大型車両が走行可能な舗装構造を実現しています。

今後、当社らは、将来のカーボンニュートラル社会を見据え、低炭素化に対応したインフラの発展に貢献できるよう、走行中のEVに連続して電力供給可能な無線給電道路の実用化に向けた技術開発を進めてまいります。

図1 無線給電道路「T-iPower Road」のイメージ
図2 電界結合方式による走行中EVへの無線給電イメージ
図3 T-iPower Roadの舗装断面

資料引用:大成建設


※1 運輸部門における二酸化炭素排出量:(国土交通省HP参照)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

※2 電界結合方式
送電側と受電側にそれぞれ電極を対面させ、キャパシタを形成、高い周波数で電気を流すと相手側電極にも電気が流れる現象(高調波電流)で伝送する方式です。
電磁誘導方式と同程度の短い送電距離ですが、位置ずれの影響をうけにくく、給電部の発熱が少ないことが特長です。高電圧発生の変圧器厚みが大きくなるのがデメリットです。


おわりに

2022年7月には、NEXCO東日本が高速道路の未来像のひとつ、走りながらEVの充電ができる「走行中給電システム」について発表しています。
在阪の関西電力や大阪メトロなど5社が参画した合同公表では、2025年の関西・大阪万博の輸送手段として大阪メトロが電気バス100台を導入し、「走行中給電システム」の運行管理や充電制御に関する実証実験を行うことを発表している。
この実証実験は、万博終了後に電気バスを市中の路線バスへ活用することも含め、2030年まで継続するとしている。そのなかで、公道にコイルを埋設し、無線でバスへ電気を送るシステムを構築。NEXCO東日本によると、万博時には公道へ給電レーンを設置し実証を行うとのこと。これは高速道路会社では初の試みになる。

あと3年で国内のEV事情はどう変革されていくのだろうか。期待したい。


参考・関連情報・お問い合わせなど

□大成建設株式会社
リリースニュース:
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/220921_8962.html

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