概要
「遠隔臨場」の現状をみながら、スマートフォンやウェアラブルカメラを使った高画質かつ安定した接続品質に加えて、360°カメラとの組み合わせで現場の情報をまるごとリアルタイムに共有できる双方向のライブストリーミングサービス「RICOH Remote Field」を7月1日から提供開始している株式会社リコー(以下、リコー)の展望を伺っていきます。
遠隔臨場を考える
2020年度から建設現場の「遠隔臨場」の試行が始まりました。
コロナ禍ですっかり普及したリモートワークの建設現場版ともいえるシステムです。国土交通省や厚生労働省など政府が立ち上げに力を入れ、建設業界やIT業界でも関心が高まっています。
遠隔臨場(えんかくりんじょう)とはウェアラブルカメラやネットワークカメラを活用し、現場に行かずとも離れた場所から臨場を行うことです。国土交通省の定義によると「材料確認」「段階確認」「立会」を遠隔で行うこととされています。
ウェアラブルカメラとはヘルメットや頭部・身体などに装着して使用する小型カメラのことです。
ハンズフリーで撮影することを前提に設計されているため、両手が使え安全に現場での作業を進められます。
材料確認を例にとると、通常は発注者が建設現場に出向き、仕様通りの材料を使っているかを検査します。一方遠隔臨場の場合、発注者は現場に出向かず、受注者が装着したウェアラブルカメラで撮影した現場の映像を見て、仕様通りの材料がそろっているか確認します。確認作業の映像を録画する場合もあります。仕様書では材料の型番やサイズなどが詳細に定められているので、小さな文字で表記されている型番などは、その部分をクローズアップして発注者が確認できるようにします。
遠隔臨場を導入することで移動のコストと時間の削減が可能で、建設現場の生産性向上につなげられます。
国土交通省の試行要領
国土交通省では以前から、公共工事への遠隔臨場の導入をめざして来ました。2020年5月には令和2年度における遠隔臨場の試行方針を発表しています。2020年3月発表時よりも機器に求められる仕様が軽減されており、導入がしやすくなりました。
※参考:令和2年度における遠隔臨場の試行について|国土交通省
(1)対象工事
対象となる工事は、各地方整備局で発注する工事のうち「段階確認・材料確認又は立会を、映像確認できる工種」及び「本試行を実施可能な通信環境を確保できる現場」です。
とくに施工現場が遠隔地で、立会等を実施するにあたり発注者が施工現場との往復に多くの時間を要する工事や、構造物等の立会頻度の多い工事が対象として想定されています。
(2)撮影に関する仕様
撮影に関する仕様は下の表の通り、国土交通省が発表している試行要領案で映像と音声の許容数値が提示されています。通信環境や映像による目的物の判別が可能であることを条件に、受発注者の協議によりカメラの画素数は640×480 、フレームレートは 15fps まで落とせます。
※出典:建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)|国土交通省
項目 | 仕様 | 備考 |
映像 | 画素数:1920×1080 以上 | カラー |
フレームレート:30fps 以上 | ||
音声 | マイク:モノラル(1 チャンネル)以上 | |
スピーカ:モノラル(1 チャンネル)以上 |
(3)配信に関する仕様
配信に関する仕様についても下の表の通り、国土交通省の試行要領案で定められています。
ただ、受発注社の協議で仕様を落として撮影した場合は、平均1Mbps 以上の転送レートを選択できるとしています。
※出典:建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)|国土交通省
項目 | 仕様 | 備考 |
映像・音声 | 転送レート(VBR):平均 9 Mbps 以上 |
(4)費用負担
費用の負担については2つの方法が示されています。
発注者指定型:試行にかかる費用の全額を技術管理費に積上げ計上する
受注者希望型:試行にかかる費用の全額を受注者の負担とする
詳しくは国土交通省の発表資料をご参照ください。
国土交通省の試行要領をもとに遠隔臨場を試行する動きも進んでいて、なかには試行要領より一歩踏み込んだ対応をしている都道府県もあります。
遠隔臨場のメリット
官公庁から民間まで、注目が集まる遠隔臨場には、さまざまなメリットがあります。
代表的な4つのメリットをご紹介
(1)移動時間の削減
遠隔臨場のメリットは臨場にかかる移動時間の削減です。
現場の臨場においては往復の移動時間がかかりますし、また複数現場を巡回することも少なくありません。遠隔臨場を行うことで、移動時間を減らし、他の業務などに時間を割けます。遠隔臨場の場合は、現場で不特定多数の人と接触しないため、新型コロナウイルス感染予防にもなります。
(2)人材の育成
遠隔臨場によって、若手人材の育成につながるケースもあるようです。
ウェアラブルカメラなどを通して、本社と現場とのコミュニケーション頻度が高められるため、本社の熟練技術者の指導などを受けやすい環境がつくられます。
若手では判断できない事項を熟練の技術者がどう捉えるのかを実際に学べ、技術者教育の機会として有効です。
また、臨場映像を録画しておけば、研修等の教材としても役立ちます。
特殊な現場では、その場で特有の検討事項が発生する場合があり、研修で利活用することで、全社的な技術力の底上げを図れます。
(3)安全性の向上
遠隔臨場は現場の安全性向上にも寄与します。移動時間がなくなることで、臨場の機会を増やせるため、異常やトラブルを早い段階で検知し、適切な対応を取れるようになります。
また土木の現場では天候等によって状況が常に変化します。大きな事故になる可能性もゼロではありません。ウェアラブルカメラだけでなく、ネットワークカメラを設置することでリアルタイムに現場の状況を確認でき、災害防止にも役立つでしょう。
万が一、自然災害等が発生した場合も、ネットワークカメラを設置していれば、災害状況をリアルタイムに確認できます。
(4)人手不足の解消
建設業においては、コロナ禍で短期的な人材の需給バランスが変わりました。以前は人手不足でしたが、延期や中止になった現場も多く待機状態の労働者もいます。
しかし、中長期的には建設業も人手不足が見込まれます。遠隔臨場等の取り組みにより現場の業務効率があがることで、人材不足の解消にもつながるでしょう。さらに働き方改革が推進され、職場の魅力が上がれば、新たな人材の獲得機会につなげられます。
遠隔臨場の課題
実際に導入した場合の課題について詳しく考えてみましょう。
機器の導入コスト
遠隔臨場を実施するには、ウェアラブルカメラなどのカメラ機器や録画機器が必要となります。
ウェアラブルカメラは一般的にリースやレンタルですが、台数が増えれば当然ながらコストが増加します。発注者が費用の全額を技術管理費として負担する発注者指定型なら比較的影響は少ないですが、受注者が費用負担する受注者希望型の案件では、導入に必要なコストと効果とを見比べて検討する必要があります。
建設現場の遠隔臨場に特化した建設システムもあり、なかにはIT導入補助金の対象となるものもあります。臨場の撮影画像の管理や助成金なども考慮するとよいでしょう。
※参考:IT導入補助金 https://www.it-hojo.jp/schedule/
IT機器に不慣れな技術者への対応
遠隔臨場に必要な機器は比較的簡単に使える機器が大半です。しかしIT機器に不慣れな作業員が負担に感じることも考えられます。
マニュアルやサポートなどのサービスを充実させたり、必要にあわせて自社で研修などを実施する必要があるでしょう。別途マニュアルを作成する場合には、その分の作業が負担となることもあります。
通信環境の確保
遠隔臨場はインターネットなどで映像をやり取りするため、通信環境の影響を受けます。
トンネルなど電波が届きにくいエリアではスムーズに映像が視聴できない可能性もあります。
また現在の通信規格は4Gが主流のため、映像品質や通信環境によっては映像や音声が一瞬途切れる瞬断などが生じることもあり、注意が必要です。
材料の確認や段階確認は少々の瞬断で大きな問題になることは少ないのですが、重要工程の立合の場合は事前に通信環境を確認し、若手が作業する場合に熟練技術者がカメラを通してサポートできる体制を整えて進めるとよいでしょう。
撮影時のプライバシーへの配慮と理解
ウェアラブルカメラやネットワークカメラで現場を撮影する際に、作業員のプライバシーに配慮する必要があります。現場での撮影時に作業員が映り込んでしまうことは避けられないことですが、カメラを導入し撮影することについて、現場の理解を十分に得る必要があります。とくに撮影画像を社内研修などで継続的に使用する予定の場合は、撮影後に不特定多数が視聴する可能性もあることを必ず伝えましょう。
このように遠隔臨場は本格的に試行が開始されています。
建設現場での感染対策や人材不足、働き方改革の推進などに対する、解決策としてその技術には熱い視線が注がれています。
そうした最中、7月から提供されているリコーのライブストリーミングサービス「RICOH Remote Field」は4K画質と安定した通信環境を携え、清水建設の現場でも活用が浸透している様子です。
ライブストリーミングサービス「RICOH Remote Field」
リコーは、スマートフォンやウェアラブルカメラを使った高画質かつ安定した接続品質に加えて、360°カメラとの組み合わせで現場の情報をまるごとリアルタイムに共有できる双方向のライブストリーミングサービス「RICOH Remote Field」を7月1日から提供開始しています。
RICOH Remote Fieldは、リコーのクラウドプラットフォーム「RICOH Smart Integrationプラットフォーム」を活用したサービスとして、安定した接続品質を実現した映像・音声のリアルタイムかつ双方向な配信を実現するものです。
リコーがこれまでテレビ会議・Web会議システムなどで培ってきた動画や音声などのメディア帯域制御の技術により、映像を高品質と低遅延を両立し、4Gなどのモバイルネットワーク環境においても安定した接続が可能です。
4K(3840×1920)画質まで対応し、リコーの360°カメラ「RICOH THETA」やウェアラブルカメラなどとの組み合わせで、臨場感あるライブストリーミングを実現します。
映像と音声の双方向配信によってさまざまな空間と空間をリアルタイムにつなぐことで、遠隔地同士のコミュニケーションを支援します。建築・建設土木業における遠隔臨場や安全パトロールをはじめ、製造業でのリモート点検支援、小売業での遠隔商談などさまざまな業種業務での活用を想定しています。
リコーは、複合機やドキュメントソリューションなど従来のオフィス領域にとどまらず、映像・音声を組み合わせたコミュニケーションサービスの開発・提供を通じて、お客様のワークフローのDX(デジタルトランスフォーメーション)に貢献します。
背景
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、さまざまな産業において非対面での営業などニューノーマルな経済活動が急拡大しました。特に、人手不足が深刻化する建設・土木業界においては、国土交通省が、i-Constructionの一環として2020年より遠隔臨場を推奨しています。
しかし、既存サービスで配信できる映像では、画角が限定される、低解像度のため遠隔臨場に十分な品質を確保できないといった課題があり、高画質かつ現場を共有できるソリューションが求められています。
RICOH Remote Fieldは、それらの課題の解決し、各産業における業務プロセスのDXを支援するサービスです。リコーは2021年から大手ゼネコンなどを中心とする一部ユーザーとともに、実際の現場で本サービスの検証を進めてきました。
「RICOH Remote Field」の特徴
高品質かつ低遅延なライブストリーミングを実現
最大で4K(3840×1920)画質までの双方向配信に対応し、従来配信できなかった詳細部位の共有が可能になります。また、低遅延で安定した接続を実現し、業務を妨げにくい品質を実現しています。
4Gなどのモバイルネットワーク環境においても安定した接続が可能です。
※品質は通信環境の影響により変化します。
360°カメラやウェアラブルカメラとの組み合わせで臨場感あふれる現場共有を実現
スマートフォンやウェアラブルカメラに加えて、リコーの360°カメラ「RICOH THETA」と組み合わせることで、360°のリアルタイム映像を共有できます。
画角が限定されることなく現場の視覚情報を丸ごと共有できるため、見落としが発生しづらく、現場の状況を臨場感を持って体感することができます。
ウェブブラウザ経由でさまざまなデバイスから簡単に視聴可能
ライブストリーミングの映像は、パソコン、タブレット、スマートフォンのウェブブラウザから視聴できます。それぞれの視聴者は、手元のデバイスで自由に視点を操作し、拡大縮小して視聴できるため、現場の作業者にカメラ操作の負担をかけることなく、受信する側が関心のある部分に集中してリアルタイムに状況を把握できます。
今後の展開
今後は、対応デバイスの拡充や、利用人数を増やすことでイベントでの配信への対応等、継続的に機能の拡充やサービス品質の向上に取り組みながら、
多様な産業分野への提案を進めていきます。
さらに、今後拡大が見込まれる高速・低遅延な5Gインフラを活用することで、さまざまな現場や用途への展開が期待されます。
資料引用:リコー
参考・関連情報・お問い合わせなど
□株式会社リコー
リリースニュース:
https://jp.ricoh.com/release/2022/0630_1/
□国土交通省
https://www.mlit.go.jp/
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_000881.html