大成建設 ✕ マイクロソフト
業界初サブスクリプションによる建物ライフサイクル管理サービス「LCMC」を提供開始。

sugitec

概要

大成建設がクラウドを利用した建物ライフサイクル管理サービス「LCMC」(LifeCycle Management Console)に業界初となるサブスクリプション方式を導入。その経緯と内容を見つめます。


日本マイクロソフト株式会社(以下、日本マイクロソフト)は、スマートシティを推進する「Smart Buildings & Spaces」というコンセプトを銘打って、2019年に公表しています。

日本の不動産市場における「ビル空間のスマート化」というニーズを実現するためには、ビル施設内でさまざまな事業者から提供される設備・サービスを連携させる“プラットフォーム”が重要になると考えられていますが、一方で、プラットフォームを構築する上で共通した技術課題として、ユーザー認証/サービス連携(API 連携など)/データ管理が挙げられます。そして、各事業者間のサービス連携推進のためのリファレンスアーキテクチャー(参考にできる構築方式・設計図)を構築していくという内容でした。

Smart Buildings & Spaceの「機能マップ」。赤系色がリファレンスアーキテクチャーで提供する領域。それ以外は各パートナー企業が提供する(出典:マイクロソフト資料)

この度の大成建設株式会社(以下、大成建設)からのニュースリリースで実用運営に進んだかたちと読めることができます。

クラウドを利用した建物ライフサイクル管理サービス「LCMC」

大成建設は、クラウドを利用した建物ライフサイクル管理サービス「LCMC」(LifeCycleManagement Console)に業界初となるサブスクリプション方式を導入し、「LCMC」を通じてお客様に効率的な管理サービスの提供を開始します。

本サービスは2021年12月よりβ版※1の先行提供を行い、実証データを基に機能改善を進め、今夏から正式版を提供する予定で、AI・IoTを活用したクラウドサービスにより、不動産価値の向上と建物保守業務の効率化を図ります。

近年、建物や社会インフラの老朽化に伴い、保守業務の重要性が高まっており、その負荷が増大しています。
建物管理の現場では、現状でも未だに紙による点検確認や経験に基づくトラブル対応などが多く、効率的な保守管理が十分に行えない環境にあります。
そのため、建設時に生じる設計・工事費などのイニシャルコストより建物竣工後の保守管理に関するランニングコストの方が高くなるとされており、建物ライフサイクルコストの低減には、保守管理を効率的に行うことが重要となってきます。

このような背景から、大成建設はAI・IoTを活用した施設運用・保守事業の変革に向け、2019年10月より日本マイクロソフトと、不動産価値の向上や建物保守業務の効率化、利用者満足度の最大化を目的とした協業を開始しました。

2021年2月にはBIMとIoTを融合した建物プラットフォーム「LifeCycleOS※2」をMicrosoft Azure上に構築し、「LifeCycleOS」を建物管理に運用することで、様々なサービスやデバイスを連携させ、建物機能の継続的なアップグレードを可能とするための基盤として整備しています。

今回、提供を開始する本サービスは、「LifeCycleOS」から取得したIoTデータを活用して建物管理を自動化するもので、導入・運用コストの最小化やサービスの選択範囲拡大などが図れるサブスクリプション方式を導入し、お客様のニーズに応じてより柔軟にサービスを改善・提供して、運用する仕組みを構築しています。(表1、図1参照)

現在、御茶ノ水ソラシティ※3(東京都千代田区)にて先行提供したβ版による現場実証データをフィードバックさせて、サービスの機能改善を進めており、今夏より正式版の提供を開始する予定です。
この取り組みは、「LifeCycleOS」上で稼働する第一弾のクラウドサービスとなります。

標準機能機能概要
①点検管理システムスマートフォンやタブレット1台で設備点検や清掃点検
データ入力の手間を減らし、建物規模や用途に応じて点検内容を自由に組み替え
オフィスにいながら建物状況をリアルタイムに遠隔管理
設備機器巡回点検効率化クラウドサービスLilz Gauge※4との連携
LCOS標準サービスであるARアプリ※5との連携予定
②インシデント管理システム設備、清掃、警備等のビルメンテナンスに関わる全てのインシデントを登録・管理
スマートフォン、タブレットやPCで一元的に管理
各担当者が一斉にリアルタイムにインシデントの状況を把握
③建物・設備管理システム建物や設備に関する情報や設備機器に関連するインシデント履歴や点検履歴、さらに、センサー等のIoTデータなどの情報を一元的に管理
不動産情報管理システムCAFM※6との連携予定
引用:大成建設 表1 LCMCの主な機能概要
引用:大成建設 LifeCycleOSとLCMCの概念図

【LCMCのメリット】

1 利用者のニーズに対応したサブスク方式を導入
本サービスは、サブスク方式の導入により、導入・運用にかかる費用を抑え、常時最新の状態で利用でき、お客様のニーズや業務状況に合わせたサービスの導入、解約が容易に行えるなど、さまざまな選択の自由度が拡大します。

2 情報を使えるデータにレベルアップ
本サービスは、建物の状況を瞬時に把握・分析して「使える」状態に加工したデータを提供することができ、施設管理者が「次を考える」事に集中し、建物ライフサイクルを見据えた管理業務が可能となります。

3 いつでもどこでも情報共有
本サービスは、情報をデータ化、オンライン化してリアルタイムに収集・整理し、デバイスを問わずどこからでも安全に同じ情報にアクセスできます。施設管理者は、遠隔地からでもリアルタイムに情報収集し、 遅延なく作業員と効率的なコミュニケーションを図りながら素早く適切な判断・指示が可能となります。

4 だれでも無理なく業務改善
本サービスは、蓄積されたデータ分析から、建物に生じる不具合を予測でき、誰でも最適なメンテナンス時期や対策を実施することで、継続的な改善を行うことができます。

今後、大成建設は、日本マイクロソフトとの協力に加え、その他の外部企業との協業により、お客様の建物に導入された「LifeCycleOS」と、LCMCを始めとする建物用途に適した各種サービスの提供を通じて建物機能を継続的にアップグレードし、不動産価値向上、建物保守業務効率化、利用者の利便性向上を実現してまいります。

LCMCで建物管理をDX
LCMCの詳細をご覧になりたい方は下記よりアクセスください。
https://www.lcmc.jp


※1
β版:開発中の製品を調整する目的で、特定のユーザーに限って提供する製品

※2
LifeCycleOS:
業界初 BIMと建物の運用管理データを統合管理する「LifeCycleOS」を開発
(https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210201_5074.html)

※3
御茶ノ水ソラシティ:
免震構造や優れた環境を実現するハイグレードオフィス
https://www.taisei-techsolu.jp/solution/d_tenant/sola_city.html

※4
Lilz Gauge:
AI・IoT技術を活用した遠隔点検サービス提供のLiLz株式会社(本社:沖縄県宜野湾市、代表取締役社長:大西敬吾)低消費電力IoTカメラと機械学習を活用しアナログメーターなどの目視巡回点検を簡単にリモート化できるクラウドサービス

※5
ARアプリ:
LCOSの標準サービス。LCOSのデータと活用とARを活用して設備点検などができる

※6
CAFM:(Computer Aided Facility Management)不動産情報管理システム
(https://www.taisei.co.jp/ss/tech/A0001.html)
不動産に関わる情報をデータべース化し、ファシリティの有効活用を支援する技術


おわりに

一般的に建築物のライフサイクルコスト(Life cycle cost)にしめる建設コストは、15%前後であることはよく知られています。残り85%は竣工後の運用に要する費用です。
この費用をBIMを使って運用効率等を向上させることで低減できるのではないかという取組みが、BIM-FMとして始まっています。この記事のマイクロソフトと大成建設の連携はその流れの一筋でしょう。

「BIM-FM」とは、BIMと「FM(ファシリティマネジメント)」との連携です。
FMとは、企業が保有するオフィスビルや生産工場といった物的資産を、用途や目的に応じて管理・活用する経営手法を指します。物的資産を単に管理するのではなく、オフィスビルや生産工場の資産価値や収益性を加味した経営戦略の立案がFMの目的です。

そして、多様な属性情報を付加することができるBIMの設計情報をFMに取り込むことで、物的資産のトータルマネジメントが実現します。
たとえば、BIMによって出力された施設台帳をFMに入力し、生産施設の長期修繕計画や点検・保全管理などに活用するといった連携が可能になります。
このように、BIMはFMを最適化するソリューションとして注目を集めている側面もあります。

しかし、解決しなければならない問題も多いのは確かです。
例えば、空調機の属性はメーカのHPからダウンロードできる。そこには設計、建設に必要な機器能力や消費電力の情報が記載されている。しかし、維持管理に必要な情報(メンテナンス周期、緊急時連絡先等)はありません。
つまり、建設に必要な情報とFMに必要な情報は必ずしも一致しないということです。
FMで活用するためには不要な情報を削除し、必要な情報を入力するという作業が発生する。
それを、だれが、いつ情報入力をするのが最も効率が良いのかを研究する必要が出てきますが、冒頭の機能マップからすると、マイクロソフトはAPI連携で情報を統合する様にも思えます。

また、BIMのデータそのものでは竣工後の運用で扱うには不便であるが、ほかの形式のデータ(たとえば、CSV形式)へに多岐変換できる形式環境や位置情報と文字情報のリンクをとるためのIDをどうするのかといった問題もあります。
これらの問題も関連業界全体で解決し標準化していかなければならないでしょう。
それらの標準化にむけても、マイクロソフトが動き出したということは、建設業界にとって黒船となるのでしょうか。

ライターが個人的に懸念するのは、すべてがデータ化された将来、外部からのデータへの侵入や改ざんを防止する非常に強固なセキュリティ体制を各建造物ごとに敷けるのかという課題もあるのではないでしょうか。

しかし、このように課題はありつつも、“統合”と“見える化”された建造物モデルの有効性についての関心は確実に高まっています。


引用参考・関連情報・お問い合わせなど

大成建設株式会社
リリースニュース:
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2022/220812_8824.html

日本マイクロソフト株式会社
リリースニュース:
https://news.microsoft.com/ja-jp/2022/08/15/220815-efficient-maintenance-management-to-extend-the-service-life-of-building-facilities-using-ai-and-iot/

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