概要
ZEBとは?を簡単に環境省より引用しつつ、戸田建設株式会社(以下、戸田建設)が日本初の仮設現場事務所において『ZEB』取得した内容を見ていきます。
『ZEB』って・・・?
ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ばれています。
快適な室内環境を保ちながら、省エネと創エネにより、「建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物」を指します。
建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできませんが、省エネによって使うエネルギーをへらし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができます。
地球温暖化対策のため、我が国は2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、業務部門(事務所ビル、商業施設などの建物)においてエネルギー起源CO2排出量を2013年度比51%削減するといった目標が設定されており、建物でのエネルギー消費量を大きく減らすことができるZEBの普及がカーボンニュートラルの実現に向けて求められています。
地球温暖化対策計画の閣議決定に伴い、「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画」(政府実行計画)についても改定されました。
政府の施設については、「今後予定する新築事業については原則ZEB Oriented相当以上としつつ、2030年度までに、新築建築物の平均でZEB Ready相当となることを目指す」としており、地方公共団体においても政府実行計画の趣旨を踏まえた率先的な取組が行われることが期待されています。
ZEBには、エネルギー消費量が削減できること以外にも様々なメリットがあります。具体的には、大きく以下の4点がZEBのメリットとして挙げられます。
建物の関係者には、オーナー、働く人、訪れる人など、さまざまな立場の人がいます。
その立場によって得られるメリットは異なるものの全ての人々に対してZEBのメリットは存在しています。そのため、ZEBを実現・普及させるためには、各立場の人々が自らのメリットを理解した上で協力していくことが必要です。
私たちが仕事や生活をするために、建物では様々なエネルギーが使われています。
発電所などから送られてきた電気やガス、熱といったエネルギーを、空調、換気、照明、給湯、エレベーター、OA機器などの形で消費しています。
建物で使うエネルギーをできるだけ減らし、できるだけ自分の建物でエネルギーをつくることで、ZEBに近づけていくことができます。
建物のエネルギー消費量をゼロにするには、大幅な省エネルギーと、大量の創エネルギーが必要です。
そこで、ゼロエネルギーの達成状況に応じて、4段階のZEBシリーズが定義されています。
・『ZEB』(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ))
省エネ(50%以上)+創エネで100%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物
・Nearly ZEB(ニアリー・ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ニアリー ゼブ))
省エネ(50%以上)+創エネで75%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物
・ZEB Ready(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・レディ(ゼブ レディ))
省エネで基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物
・ZEB Oriented(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・オリエンテッド)
延べ面積10000m2以上でエネで用途ごとに規定した一次エネルギー消費量の削減※を実現し更なる省エネに向けた未評価技術(WEBPROにおいて現時点で評価されていない技術)を導入している建物
※事務所等、学校等、工場等:40%、ホテル等、病院等、百貨店等、飲食店等、集会所等:30%
建物のエネルギー消費量を減らすためのさまざまな技術を適切に組み合わせて導入することで、ZEBを実現することができます。
このZEBを実現するための技術は、消費するエネルギーを減らすための技術(省エネ技術)とエネルギーを創るための技術(創エネ技術)に分けられます。
実際にZEBを実現する場合には、①パッシブ技術によってエネルギーの需要を減らし、②どうしても必要となる需要についてはアクティブ技術によってエネルギーを無駄なく使用し、③そのエネルギーを創エネ技術によって賄うといったステップで検討することが重要です。
また、建物の運用段階にでは、どこにエネルギーの無駄が発生しているか、どのように効率的に設備を運用するかなど、エネルギーをマネジメントする技術(エネマネ技術)も重要です。このエネマネ技術によって継続的なエネルギー消費量の削減を図ることができます。
日本初、仮設現場事務所において『ZEB』取得※1
この「ZEB」認定を戸田建設株式会社(以下、戸田建設)が、この度、第二神明道路櫨谷工事の仮設現場事務所において、国内初の『ZEB』※2の認証を7月29日付に取得。
戸田建設は本現場事務所における認証取得を皮切りに、現場事務所のZEB化を展開します。
※1
一般社団法人住宅性能評価・表示協会ホームページ、BELS事例データ一覧による(2022年7月末時点)
※2
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、快適な室内環境を実現しながら、高断熱化や設備の高効率化による省エネ、太陽光パネルによる再エネにより、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。エネルギーの削減率により4つのランクに分けられ、最高ランクの『ZEB』は100%以上の削減が必須。その『ZEB』クラスを取得。
工事現場の脱炭素化に向けた背景
地球温暖化対策として温室効果ガスの排出抑制が求められるなか、戸田建設はSBT認定※3を2017年に取得・2022年に更新しており、スコープ1+2※4の排出総量を2030年度までに2020年度比42%削減することを目標として掲げています。
工事現場においては「TO-MINICA(低炭素施工システム)※5」の使用、RE100に適合する再生可能エネルギー電力の採用などにより、スコープ1+2の削減に取り組んできました。今後はさらなる削減に向け、現場事務所のZEB化を推進し、脱炭素社会の実現に貢献します。
※3
2015年のパリ協定に基づいた、企業の科学的な根拠に基づくCO2排出量の削減目標
※4
スコープ1:戸田建設の建設現場等で使用したガソリン、軽油、灯油等に伴う直接排出スコープ2:戸田建設が購入した電気、熱等の使用に伴う間接排出
※5
施工中に排出するCO2量を事前に計算し、これに対して削減計画を立案・実行する、戸田建設独自のシステム
『ZEB』取得に向けた工夫点
戸田建設は建設中の新社屋「新TODAビル」※6でのZEB Ready認証取得、筑波技術研究所「グリーンオフィス棟」※7での『ZEB』認証取得など、ZEB化を積極的に推進してきました。そこで蓄積したノウハウを生かしながらも、仮設という性質に合わせ、経済的でかつ現場事務所に活用しやすいZEB化モデルを開発しました。
本現場事務所では屋根・壁・1F床の断熱材追加や窓への遮熱フィルム貼付けによる外皮性能の向上、執務室の運用を見越したうえで容量を最適化した高効率空調機の計画、LED照明及び赤外線感知できる人感制御の配置により、一次エネルギー消費量62%の省エネを達成しました。また太陽光パネルによる発電も加味することで、正味109%の削減が可能となります。
ほかにも、発電した電力のさらなる活用を目的として、(株)村田製作所製のAll-in-One蓄電池システム(蓄電池一体型パワーコンディショナ)を導入しています。
小型で移設が容易であることから、短期間で解体される仮設事務所との相性がよく、撤去後は太陽光パネルとともに他現場で再利用可能です。
搭載された蓄電池により、日中は発電量の余剰分を充電し、夜間に放電することで、再生可能エネルギーを無駄なく使用できます。また、停電時にはバックアップ電源とすることで、現場事務所の安全管理にもつながります。
※6
建物高さ150m以上の複合用途ビルにて建物全体での「ZEB Ready」認証を日本で初めて取得した施設
※7
改修工事、運用、廃棄にいたるライフサイクルにおけるCO2排出量に対し、再生可能エネルギーや木材・樹木の採用によるCO2削減効果の方が大きくなる、カーボンマイナスを目指した施設
エネルギーの見える化による省エネ意識の向上と労働環境の改善
戸田建設はCO2排出量見える化システム「CO2MPAS」を開発しており、工事現場への配置を進めています。ZEB化によるCO2排出目標と日々の排出実績を比較・表示させることで、執務者の省エネ意識向上及び、エネルギーロスの原因追究を図ります。また両者に乖離があった場合には、長時間労働が表面化している可能性も考えられます。
執務者の安全と健康を確保し、一人ひとりのウェルビーイングを向上させるためにも、日々の取得データから労働環境を改善し、魅力的な建設現場の実現に努めていきます。
<現場事務所概要>
建物名称 : 第二神明道路櫨谷工事現場事務所
所在地 : 兵庫県神戸市西区櫨谷町地先
延床面積 : 368.74 m2
構造 : 軽量鉄骨軸組構造
太陽電池容量 : 19.2 kW
蓄電池容量 : 9.2 kWh
シミュレーションによる快適性の検証
空調機容量の最適化にあたり、執務室の温熱環境をシミュレーションしています。検証の結果、夏期・冬期ともに、断熱性の高い『ZEB』仕様の現場事務所のほうが、外気温や日射の影響が小さいことから、室温のムラを抑えることができました。
快適性を評価する「PMV※8」においても、快適範囲である-0.5から0.5に占める割合が大きく、ZEB化による快適性の向上が認められました。
※8
温度、湿度、放射、気流、活動量、着衣量の6つの要素から算出される快適性を評価する指標
今後の展開
本現場事務所の運用を通して、省エネ性・快適性を都度検証し、さらなるZEB化の推進・脱炭素社会の実現に貢献します。
おわりに
戸田建設の「ZEB」事例は新設案件です。
それでは既存の建物にZEBを敷設するにはどうすればいいのでしょう。
既にそこで働く人々や建物を利用している人々がいるため長期の改修工事が困難、既設の設備システムを大きく変えることが困難といった、新築時にはない課題が存在します。
そのため、ZEBを実現するためのプランニングにおいて一定の制約があることは事実です。
しかし、既存建築物の仕様等を踏まえ、ZEBを実現するためのプランニングを工夫することで、ZEB化を実現した事例も存在します。
既存建築物を改修によってZEB化する際のポイントは以下の3点が挙げられます。
① 改修ZEBの実現は難しくない!?
② ZEBに改修することでどんなメリットがあるの?
③ ZEB化改修を考えたいけどまず何から始めたらいいの?
① 改修ZEBの実現は難しくない!?
既存建築物を改修する際には、工事の物理的な制約や、建物利用者との関係によるスケジュール上の制約など、新築時と比べて様々な制約が存在します。
一方で、そのような制約のある既存建築物のZEB化事例としては、先進技術を豊富に採用し大きなコストを投じて改修した事例ばかりではありません。
むしろ、既存の汎用的な技術を組み合わせることで、ZEB Readyの水準までエネルギー性能を高めているケースも多く存在しています。
これらの汎用的な技術は、建物を維持管理していくうえで必要な通常の修繕や設備更新時に採用される技術に対して、少しの手間やアイデアを加えることで導入が可能なものが多く、大幅なコストアップを招くものではありません。逆に採用する技術によっては、ZEB化を目指すことでコストダウンを実現可能となる可能性もあります。
まずは、「改修によるZEB化は技術的にハードルが高く大幅なコストアップが発生する」といった先入観を捨てて、「改修ZEBの実現は難しくない!」という考え方で最初の一歩を踏み出してみてくださいと、環境省はエールを送っています。
② ZEBに改修することでどんなメリットがあるの?
既存建築物に対して、多少なりともコストアップの可能性があるZEB化改修を進めることでどんな効果があるのでしょうか。
もちろん、国全体で見ればCO2の削減効果がカーボンニュートラル実現に向けた目標の一助となるといった効果が期待できます。
一方で、個々の建物オーナーや建物の利用者にとっての具体的なメリットとしては以下のような点が挙げられます。
- 外皮性能の向上、高効率設備の導入、最適な設備容量への更新などによりZEBへ改修することで、運用時におけるエネルギーコストの削減、将来的なさらなる改修コストの削減が可能
- 室内環境の改善により、快適性や知的生産性といったウェルネスを向上させることにもつながる
- テナントビルの場合には、このような建物への改修が賃料にプラスの影響をもたらす可能性がある
環境省では、「リーディングテナント行動方針」を策定し、①エネルギー性能が高い、②再生可能エネルギーの活用が可能、③快適性・知的生産性・快適性が高い建物に対するテナントのニーズを取りまとめて発信する施策を行っています。
このようなテナントニーズに応えるものとして、 ZEBへの改修はこれからの既存テナントビルにとって、対応が求められる取り組みであると同時に、テナント誘致やビルの収益改善に向けた武器としてとらえることもできます。
③ ZEB化改修を考えたいけどまず何から始めたらいいの?
既存建築物を改修してZEB化しようと考える際に、まず何から始めたら良いのでしょうか。
汎用技術の組み合わせで実現可能といっても、すぐに仕様を決めて設計を委託し、設備更新を進められるというオーナーはほとんどいないと考えられます。
ZEB化改修を進めるための主な5つのステップ。
① 保有建物に関する現状把握(図面、設備の計装図等の確認)
② 現状資料を基に専門家(ZEBプランナー)に相談
③ ZEB化までの計画を作成
④ 改修工事
⑤ 改修後建物の適切な運用
まずは自らの建物の現状を知るために、竣工時やこれまでに行った改修の際に作成された図面等を集める必要があります。その上で、これらの資料を基に専門家に相談することになります。専門家との協議では、ZEBに向けて目指す水準、改修のスケジュール、費用について検討を進めます。
その後、改修工事を経てZEBとして生まれ変わった建物を運用していくことになります。
なお、実際に計画通りエネルギー消費量を削減するためには、工事して終わりではなく適切に運用していくことも重要な視点です。
相談先となるZEBの計画や工事に対する実績を持った専門家として、『ZEBプランナー』が国の制度において登録・公表されています。この中から、地域や建物用途など、自らの属性に合った専門家を探して相談することが可能です。
また、このようなステップの中で、改修によってZEBを実現するという当初のモチベーションを維持するためには、計画を立てた段階で外部からの認証を取得することも効果的です。
ここまで見て来まして、ライターは弊社業務のインスペクション事業に「ZEB」要素をプラスすることで、より多数の建物の資産価値を付加し、保全管理を適切に行う「ストックマネジメント」の動きが活発になるのではないかと思いつつ、本日は筆を置くことにします。
参考・関連情報・お問い合わせなど
□戸田建設
リリースニュース:
https://www.toda.co.jp/news/2022/20220801_003096.html
□環境省
ゼブ・ポータル
https://www.env.go.jp/earth/zeb/index.html