続・どうする明治用水
奥村組の矢作川総合第二期農地防災事業明治用水頭首工耐震での汚濁防止対策

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概要

明治用水の記事はアクセス数が日ごとに増え、ライターとしても「その後」はどうなっているのかをリサーチした今回のブログ。
愛知県豊田市の取水施設「明治用水頭首工(とうしゅこう)」で大規模な漏水が確認されてから3カ月が経過した現在の様子を引用記事・動画から見つめ、奥村組の矢作川総合第二期農地防災事業明治用水頭首工耐震での汚濁防止対策から施工の困難さをみつめます。


大規模漏水から現在まで

愛知県豊田市の取水施設「明治用水頭首工(とうしゅこう)」で大規模な漏水が確認されてから8週間が経った7月10日、復旧作業が続いている現場をドローンで撮影した。

右岸側の取水は安定的に確保されている一方、左岸側はまだ漏水が止められていない様子が上空から見て取れた。

右岸側は水位上昇し安定的に取水頭首工は豊田市を南北に流れる矢作(やはぎ)川を堰き止め、並行する明治用水に取水するための施設。
平年は右岸側から毎秒約20トン、左岸側から同約1.3トンを取水し、農業用水や工業用水に利用している。

施設を所有する東海農政局は5月15日に左岸上流側で漏水を確認した。
漏水していると思われる所に砕石を投入したがうまくいかず、その後はむしろ漏水範囲が拡大。通常通りに取水を行うことが困難になってしまった。

対策工事として、農政局などはコンクリート製の頭首工から上流数百メートルにある「旧頭首工」周りに土のうを積み、さらに鉄の矢板を打ち込んで導水路を確保。

この結果、6月22日から右岸側の水位が上昇し、本来の取水口からも水が自然に取り込めるようになり、ポンプと合わせて毎秒約13トンの取水を確保した。

ドローン撮影したこの日(7月10日)は前日の雨で川が増水し、矢板の上部まで水が満たされていた。下流側は堰で調整された水が勢いよくあふれ出していた。

左岸側は漏水状況の調査や対策工事続く一方、漏水が発生した左岸側では、状況を確認する調査や水の流入を止めるための各種工事が続いていた。

農政局の6月の調査では、川と並行する「魚道」の下に、深さ2メートルほどの空洞ができていたことが確認されている。
また、魚道の側壁下部の隙間から水が流出していることも分かった。その下の土砂が落ち込み、下流までの水の通り道ができる「パイピング現象」が発生したとみられている。

ドローン撮影では、側壁に調査用の穴が何カ所か開けられ、下部に複数の亀裂が入っている状態などが確認できた。

隙間をふさぐために砕石を投入したり、薬液を注入したりしたというが、この日は水流が強いこともあり、まだかなりの水が流れ出ているようだった。
堰を挟んだ下流側でも水が噴き出しているような様子が確認できた。

東海農政局によると、今後は漏水箇所を取り囲むように打ち込んだ矢板の周囲にコンクリートを打ち、水の流入をくい止める予定だという。
一連の対策工事の完成は7月下旬を見込んでいるという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4cad43807458cc5db31d8c41d8c92f409a448dec

矢作川総合第二期農地防災事業
明治用水頭首工耐震化対策第二期工事

あとからリサーチして(https://www.maff.go.jp/tokai/press/nochi_seibi/220603.html)、今回の修復作業も農水省のHPを見ていくと、受注業者に株式会社奥村組(以下、奥村組)がリストアップされている。

この経緯をたどり、矢作川環境技術研究会(http://www.yakanken.jp/)の公開資料(http://www.yakanken.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/06/e74904d9b59355a1be0b30e9fd16278f.pdf)に行きつきました。

そのなかで、奥村組名古屋支店がまとめた「明治用水頭首工耐震化対策建設工事における環境保全対策」を見ると奥村組が矢作川総合第二期農地防災事業 明治用水頭首工耐震を2015年8月から2022年6月までの工期として施工している。

状況から判断すると、大規模な漏水は明治用水頭首工耐震化対策建設工事が完了寸前で発生したため、修復作業も含め工期が延長したのだろうと推測できる。
この資料の中では、奥村組の工事実施時における汚濁防止対策が丁寧に記されている。今回はその対策を見ていきます。

工事概要
工事名:矢作川総合第二期農地防災事業 明治用水頭首工耐震化対策第二期工事
発注者:農林水産省 東海農政局(矢作川総合第二期農地防災事業)
工期:2015 年 8 月~ 2022 年 6 月
工事内容:ケーソン対策工 鋼管杭φ500 ㎜ 4 本、SC 杭φ800 ㎜ 30 本
堰柱門柱対策工:鋼板巻立て工 2,109m2(t=6mm~19mm)
擁壁対策工:右岸擁壁せん断鉄筋挿入工1式・左岸擁壁増厚工1式
巻上機室改修工:1 式
仮設工:1式(上流側:鋼矢板仮締切 下流側:土砂土のう仮締切)

資料引用:奥村組 名古屋支店

工事実施時における汚濁防止対策

本工事は矢作川を大規模に締め切って施工することから、そのため、防災及び周辺地域や下流流域の環境保全を第一に考え、綿密な計画と実行が必要であり、濁水を低減させるため、水と土の接触を最小限にするよう計画し、本工事で実施した河川汚濁防止対策について報告している。

下流側締切盛土の濁水防止対策
降雨等による工事用進入路や締切盛土の土砂の河川流出を防止するため、盛土天端を敷砂利で舗装。
また、大型土のう同士をロープで緊結し、土のうの河川流亡防止を図った。車両導線上には敷鉄板を敷設し場外への土砂・濁水の拡散低減を図った。

資料引用:奥村組 名古屋支店

汚濁防止フェンス
鋼矢板打設や土砂土のう盛土による仮締切の設置時は施工範囲全周に汚濁防止フェンスを設置し、河川への濁水拡散の低減を図った。

資料引用:奥村組 名古屋支店

仮設構造物における流入水抑制対策
締切内への河川の流入水もほぐした土と接触すれば濁水発生の要因となる。そのため、締切内への流入水を極力低減させる設備を計画。

上流側は鋼矢板のセクションに膨潤止水材を塗布しセクションからの漏水を低減させた。
それでも発生する漏水はおが屑と砂を混合し漏水箇所に少量川側から散布することで止水することができた。

また、本工事では締切内を 5m程度掘削する。掘削時は大量の高濁度の湧水が発生し、処理が困難になることが懸念された。そのため、当初設計では締切鋼矢板根入れ長は自立長の確保分しか設計されていなかったが、発注者と協議し、岩着まで到達できるよう矢板長延長の設計変更を行った。

これにより鋼矢板の浸透路長を増やし、かつ透水層を遮断することにより掘削時の湧水の劇的な低減が図れ、濁水処理設備で湧水の処理をまかなうことができた。

資料引用:奥村組 名古屋支店

下流側は大型土のうと土砂の間に川側は遮水シート、場内側は吸出し防止シートを挟むことで漏水を低減させた。それでも発生する漏水は釜場で集積し後述の濁水処理設備に導水した。

資料引用:奥村組 名古屋支店

注入材料の選定
鋼矢板締切端部は既設魚道のコンクリートが存在するため鋼矢板を打設できない箇所がある。
その部分はコンクリート下部を薬液注入で地盤改良を実施する必要があった。

河川内作業であることから注入材料の選定にあたっては周辺地域や下流流域の環境保全の観点から河川に無害な材料の選定を計画した。

上記理由から本工事では水ガラス系無機溶液型注入材を使用した。本材料はゲルタイムの調整が可能なので材料の逸走が少なく、中性領域で固化するため水質への影響がない。注入施工中は水質測定を実施しながら作業を行い、水質変化なく施工を完了させることができた。

資料引用:奥村組 名古屋支店

また、一部水中でのコンクリート打設作業(エプロンコンクリート復旧作業)もあるため、該当作業では水中不分離コンクリートを打設した。

水中不分離コンクリートは通常コンクリートに水中不分離性混和剤を添加することにより、高粘性を付加し水中での材料分離を少なくさせたコンクリートである。これにより打設中のpH の上昇や河川の濁りなく施工を行うことができた。

資料引用:奥村組 名古屋支店

濁水処理設備
ここまで説明した対策を講じて、なお発生する湧水や雨水は最終的には水中ポンプでくみ上げ濁水処理設備(100m3/h)に集積。

コンクリート打設及びコンクリートはつり時の高アルカリ水の流出を防止するため、炭酸ガスによる中和を行う。また、掘削に伴う濁水の粒子を凝縮沈殿させ、排水基準値以下に低下させて河川へ排水した。

資料引用:奥村組 名古屋支店

資料の最後には、こう締めくくられている。

本工事は河川内作業であることから、様々な汚濁防止対策を講じ、細心の注意を払い施工を行ってきた。長期間の工事であったが、これら対策により環境に配慮した施工を行う事ができた。しかしながら、これら対策も着手当初から完璧にできたわけではない。

着手当初は湧水量が想定より非常に多く排水処理設備は沈砂池→濁水処理設備(30m3/h)→濁水処理設備(100m3/h)と変遷した。

その都度工事を中止し計画の見直しを経て現在に至る。鋼矢板長の変更もこれら検討の中で実現した対策である。河川締切および大規模河床掘削を伴う工事の湧水量は土質や構造物の立地条件等により事前想定は非常に難しい。

また、近年の降雨量の増加に伴い、現場流入雨量も増加するであろう。河川工事は非出水期施工であるため、工期が厳しい場合が多い。過大設計は望ましくないが、ある程度急なリスクを想定し余裕をみた仮設計画を受発注者で検討しておくことが今後の河川工事では重要ではないかと考える。


施設が大規模であることから複数期(6期)に渡り、施設延長約170mを分割して施工した明治用水頭首工耐震化対策建設工事に奥村組が丁寧に環境を配慮した長期的な記録が短い資料からも読み取れる。

しかし、矢作川一帯の礫状地質が水の見えない逃げ道を無数に生じさせる。
そして、激変する気象環境が水路インフラをじわじわと削る。

阪神・淡路大震災でJR神戸線六甲道駅一帯が崩落し、復旧までには最低でも2年はかかるといわれていたが、わずか2ヶ月で復旧を果たした奥村組。
インフラの復旧の重要性を熟知しているからこそ、慎重に復旧工事を進めていくだろう。
健闘を祈りたい。

そして、折しも明治用水頭首工復旧対策検討委員会(第3回)の開催が週明けに開かれる。

明治用水頭首工で漏水事故が発生したことを受け、そのメカニズムと原因の分析及び本復旧対策について、専門的見地から総合的に検討を行うため、第3回目の「明治用水頭首工復旧対策検討委員会」を開催する。

第3回検討委員会
(1)日時:令和4年7月26日(火曜日)10時00分~12時00分
(2)検討会場所:東海農政局土地改良技術事務所研修室(愛知県名古屋市中区三の丸1-2-2 2号館)
(3)議題:これまでの調査結果及び漏水発生のメカニズム等
https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/yousui/220719.html


参考・関連情報・お問い合わせなど

□株式会社奥村組
http://www.okumuragumi.co.jp/

□農林水産省
https://www.maff.go.jp/index.html

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