消防庁が目指す未来の防災。避難口誘導灯が火災状況に応じた安全な経路をしめすシステムを開発した竹中工務店 ✕ 東芝ライテック ✕ ホーチキ

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概要

消防庁が大規模な防火対象物の火災時等においてG空間情報やICTを活用した消火活動の未来像をめざすとりくみと、竹中工務店・東芝ライテック・ホーチキが共同開発した日本初の出火場所に応じて進入禁止を表示する避難口誘導灯システムを見つめます。


消防庁では、日本全体の科学技術政策の中期的なマスタープランである「科学技術基本計画」を踏まえ、消防防災分野の研究開発等に係る中期的なマスタープランとして「消防防災科学技術高度化戦略プラン」を策定し、おおむね5年ごとに改訂している。

平成30年3月に改訂した「消防防災科学技術高度化戦略プラン2018」においては、自然災害リスクの増大や社会の脆弱化への対応に加え、研究成果の社会実装の推進を主眼としている。
この「科学技術基本計画」を踏まえ、政府において科学技術のイノベーションに関する総合戦略が毎年策定されており、直近では令和2年7月17日に「統合イノベーション戦略2020」が閣議決定されている。同戦略においては、Society5.0の実現のため、AIやロボット等についてイノベーションに資する研究開発を推進するとともに、研究成果の社会実装化を推進していく。

消防庁では、以上を踏まえ、消防防災行政に係る課題解決や重要施策推進のための「消防防災科学技術研究推進制度」における研究課題としてAIやロボット等に関連した案件を重点的に採択するとともに、研究成果の社会実装化を推進している段階にある。

ここでは、消防庁において取り組んでいるAIやロボット等を利用したシステム等に関する研究開発の事例の中から、本日のニュースリリースに関連する事例を一つ挙げたいと思います。

Society5.0
仮想空間と現実空間を融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会を目指す取り組みのこと。具体的にはAIなどを活用することで最適化をはかった社会を実現しようとするのがSociety5.0。

G空間情報とICTを活用した大規模防火対象物における防火安全対策の研究開発

G空間情報
「位置情報、すなわち『空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報(当該情報に係る時点に関する情報を含む)』または位置情報及び『位置情報に関連づけられた情報』からなる情報」。
つまり、GPS(全地球測位システム)およびGIS(地理情報システム)の活用により実現される情報のことである。

本研究開発は、消防庁により、令和元年度から2か年計画でさいたま市消防局、千葉市消防局の協力のもと進められた委託研究である。

目的及び概要
本研究開発は、大規模な防火対象物の火災時等においてG空間情報やICTを活用し、防火対象物内の在館者(自衛消防隊員を含む。)や公設消防隊員の位置情報を防災センター(施設内の火災等の監視と消防用設備等の制御を行う管理施設)等で把握するG空間自衛消防支援システムと、自衛消防隊の活動状況や火災拡大状況等をスマートマスク(ICT等を活用して多機能化した空気呼吸器用のマスク)やタブレットにより、現場の公設消防隊員と情報共有し、効率的かつ安全に消防活動を行う現場活動支援システムの2つで構成されるG空間情報消防活動支援システムの開発を目的としている。

以下、研究の概要及び各システムの概要図。

「G空間自衛消防支援システム」の構築

スマートフォンやタブレットを活用することで、事業所の自衛消防隊と防災センター間の情報を画像やテキスト等で共有し、自衛消防活動を支援する機能と、在館者(自衛消防隊員を含む。)の所在位置を特定する屋内測位機能を連携させた、「G空間自衛消防支援システム」を構築する。
これにより、防災センターに集約される災害情報等を組み合わせることで、災害発生場所から近い位置にいる自衛消防隊員及び逃げ遅れ者の所在の検知、的確な初動対応の指示などができるようになり、自衛消防隊の活動をより効果的なものとすることができる。

総務省消防庁より G空間自衛消防支援システム概要図

「現場活動支援システム」の開発

公設消防隊員が装備する空気呼吸器用のマスクに可視カメラや赤外線カメラ、ヘッドマウントディスプレイ等を付加することでスマートマスクとして多機能化を図り、
さらに通信機能を付加することで現場の公設消防隊員と離れた場所で活動する指揮者(隊長)間での情報共有を行う「現場活動支援システム」を開発する。
これにより、現場の公設消防隊員から指揮者へ現場状況などを伝達するとともに、指揮者から隊員へテキスト情報などを伝達することで、指揮活動の効率化や安全管理の向上を図ることができる。

総務省消防庁より 現場活動支援システム概要図

さらに、「G空間自衛消防支援システム」と「現場活動支援システム」間で連携を図り、自衛消防隊の活動状況や火災拡大状況等をスマートマスク等で共有することで、自衛消防隊及び公設消防隊の活動を支援する「G空間情報消防活動支援システム」の構築を目指している。

総務省消防庁より G空間情報消防活動支援システム概要図

数秒で生命が左右される消火現場で冷静にICT技術を駆使し、取り残された人々を迅速に救助できるのだろうか、数千度を超す灼熱の火災現場でデバイス機器の耐火性と安定した通信環境の構築が保たれるだろうかと、様々な懸念材料を思い浮かべるが、Society5.0の社会が実現したと仮定した場合、確実に個人は何らかのGPSを有したデバイスを有しているだろうから、その位置情報をAIがサーチングし、個人のG空間情報をたよりに捜索をすることで、より迅速な救助活動と消防隊員の二次災害を防げる未来像は近いのかもしれません。

研究開発段階とはいえ、消防庁の消火活動のICT化へのとりくみを伺えました。

それでは、今現在の超大規模防火対象物での設備面での防災対策はどうでしょう。
竹中工務店と東芝ライテックとホーチキによる共同開発したシステムをニュースリリースとしてみてみましょう。

※「超大規模防火対象物」とは
「超大規模防火対象物」及び「大規模、高層の建築物が地下部分や駅施設等を介して複雑に接続された超大規模な建築物群」のことをいいます。また、「超大規模防火対象物」とは、自衛消防組織(火災や地震発生時の初期消火や消防機関への通報、応急救護等を円滑に行い、建築物の利用者の安全を確保するため、消防法第8条の2の5に基づき設置されるもの)の設置義務対象のうち、以下の全てに該当する防火対象物のことをいいます。

(1) 不特定多数の者が利用する特定防火対象物(競技場、商業施設、ホテル等)、駅舎、空港
(2) 収容人員が 10,000 人以上
(3) 高さが 200m以上又は延べ面積が 200,000平方メートル以上
◇消防庁ホームページ掲載資料参照( https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/post-34.html )

日本初、出火場所に応じて進入禁止を表示する避難口誘導灯

株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)、東芝ライテック株式会社(以下、東芝ライテック)、ホーチキ株式会社(以下、ホーチキ)は、火災の発生場所に応じて危険な経路に人が進入しないような表示を行う避難口誘導灯(特許出願済)を共同開発し、一般財団法人日本消防設備安全センターのシステム評価を取得しました。
本システムは、2022年6月に竣工した名古屋市国際展示場新第1展示館整備事業に初適用しました。
※2022年7月5日現在、国内において「消防防災システム評価」を取得したシステムとして

資料引用:竹中工務店 避難誘導イメージ
資料引用:竹中工務店 進入禁止を表示した避難口誘導灯

本システムは、避難経路上で火災が発生した場合に、火災により使用できなくなった避難経路上の避難口誘導灯に進入禁止(×印)の表示をすることで、火災状況に応じた安全な避難口へ誘導するシステムです。

人の多く集まる施設・建物には、避難口や避難方向を指示するための表示設備である避難口誘導灯等の設置が義務付けられています。
一定規模以上の建物では、火災や災害の発生時、建物にいる人々が速やかかつ安全に避難できるよう、複数の避難経路が計画されています。

しかし、出火場所によっては一部の避難経路が利用できない場合があり、そこにつながる避難口誘導灯が表示されたままであると、避難者が誤って危険な避難経路に誘導される恐れがありました。

本システムを採用することで、火災状況に応じた避難が可能になり、建物利用者の安全性を向上させます。また、スタッフの避難誘導業務をサポートすることが可能です。

3社は今後、大規模商業施設や展示場のような不特定多数が利用する施設、大規模倉庫など、避難経路が複雑な施設への適用拡大を目指します。

技術概要
今回の開発では、表示装置の設計・製作を東芝ライテック、防災設備との連携システムの検討をホーチキ、システムの設計要件と評価および適用を竹中工務店が担当しました。

  • 自動火災報知設備と連動して避難口誘導灯に進入禁止が表示されるため、安全な避難が可能になります。
  • 適用は新築・既存問わず複数の避難経路を持つ建物に適用できます。
資料引用:竹中工務店 進入禁止を表示できる避難口誘導灯の設置状況
資料引用:竹中工務店 名古屋市国際展示場新第1展示館整備事業 建築概要
所在地  名古屋市港区
事業主  名古屋モノづくりメッセ
設計  久米・竹中設計共同体
施工  竹中工務店
延床面積  40,716.66m2
構造/規模  S造/地上3階

おわりに

出火場所に応じて進入禁止を表示する避難口誘導灯のシステムは、プレスリリースの図をみるかぎり、管内の制御盤から安全ではない避難口をシャッドダウンしている様子。
もしも基盤火災ということも想定されれば、本来のシステムが発揮できうるかと懸念されますが、冒頭のSociety5.0下での消防庁のとりくみの一環からすれば、施設内の制御盤自体がダウンしたとしても、IoT機器を利用した外からの避難誘導の制御が可能になるだろう。
こうした複管にすることでのリスクの分散につながり、もしもの施設災害下での「不幸中の幸い」という事例から人命救助に結びつけることに繋がるだろうと思われる。

本日も読んでいただき、ありがとうございました。


参考・関連情報・お問い合わせなど

株式会社竹中工務店
リリース記事:
https://www.takenaka.co.jp/news/2022/07/01/

東芝ライテック株式会社
リリース記事:
http://www.tlt.co.jp/tlt/press_release/p220705/p220705.htm

ホーチキ株式会社
リリース記事:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6745/ir_material18/187614/00.pdf

総務省消防庁 令和2年版 消防白書
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r2/topics4/56540.html

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