概要
太陽光利用型植物工場内において、西松建設株式会社(東京都 以下、西松建設)が開発した環境監視クラウドシステム「OKIPPA_Green」を適用し環境制御することで、バジルの収穫量の増加と品質向上を確認したというニュースです。
下記は農林水産省が公表している最新の食品価格動向調査(野菜)の調査結果です。
令和4年6月13日の週【6月13日~6月15日】の調査結果(全国平均)
調査対象8品目の価格は、前週比で-6%~+5%、平年比で-2%~+103%の範囲内となっています。
消費者目線からとらえると、「なかなか高い」と感じますが、生産者側から考えると、地政学的な事情からの燃料費上昇や運送費上昇、昨年来からの天候不順もかさなり、価格に転嫁しないと一次産業として生計を維持できない事情があることを考えて、無駄なく購入するのが、正しい消費者マインドというものです。
そうした生鮮野菜の価格動向を垣間見たところに、生産者にも消費者にも未来の食生活を安定的に供給できる栽培システムのニュースリリースを紹介します。
OKIPPA_Green ✕ Veggie
西松建設の「OKIPPA_Green」については、以前のブログ記事に詳細なシステム内容を紹介しました。https://www.innovation.sugitec.net/22235/
この度のニュースリリースは、バジル栽培において「OKIPPA_Green」による栽培環境のモニタリングと最適な空調管理により、収穫量の増加と品質向上を確認したという内容。
太陽光利用型植物工場内において、環境監視クラウドシステム「OKIPPA_Green」を適用し環境制御することで、バジルの収穫量の増加と品質向上を達成しました。
背景
自然環境下で生産される農作物は、日射量や温度、湿度などの様々な環境によって生育が左右されます。それらの環境影響を抑えるために、自然環境下より環境の制御可能なビニールハウスやガラス温室等の施設園芸が発達してきました。
特に温度・湿度の環境条件は、生育に強く影響を与えるためエアコンやヒーター等の空調機器によって制御がされていますが、空調機器の設定と施設内の植物が感じる温度・湿度が合致するとは限りません。
そのため植物への最適環境になっているかは実際の植物近傍の環境を計測し、反映する必要があります。また高湿度下において葉に結露が発生することで、カビなどの微生物や虫が繁殖しやすくなることから、結露を発生させない栽培管理も肝要となります。
西松建設の環境監視クラウドシステム「OKIPPA_Green」は、温度と湿度・照度等のセンサーを2種搭載可能で、バッテリー駆動であるため任意の場所で環境データを計測することができる廉価なIoT機器です。
このシステムを利用することにより、容易に植物近傍の環境を計測することができます。また計測した環境データはLPWA※2を用いて自動でクラウド上に送信・保存されるため、インターネットに接続可能な端末(パソコン、スマートフォン等)があれば、いつでもどこでも環境データを確認できます。
数か月以上のデータを一度に比較できるため、季節の変わり目などの温度の差異、変化も確認しやすいことも特徴の一つで、安定した生産管理をサポートできます。
成果の概要
2021年2月から、グリーンラボ株式会社(福岡県 以下、グリーンラボ)が運営する太陽光利用型植物工場「Veggie」にて、西松建設が開発した環境監視クラウドシステム「OKIPPA_Green」を活用してバジル栽培の実証実験を行っていました。
このたび、温度・湿度の環境データのモニタリングと最適な空調管理を行うことで、生育促進および病虫害の発生が抑制されることによって、1.5倍の収量増加と品質の向上を確認することができました。
バジル近傍の温度と湿度をOKIPPA_Greenにてモニタリングし、空調の制御・管理を行った条件(温度・湿度適正管理条件※3)と、空調機の設定を一定にした従来の管理条件(従来管理条件)で比較試験を行いました。
温度、湿度を適正に管理することで、①生育の促進と、②病虫害(灰色カビ病※4やハダニ)の発生が抑制される2つの効果を確認できました。
その結果、従来に比べ温度・湿度適正管理条件では廃棄する葉が少なくなり、収穫量が1.5倍増加することを確認しました。
OKIPPA_Greenによる温度、湿度、照度の計測データと実際の収穫量のデータを比較する事で、季節ごとの収穫量が増減する原因解明や数か月後の収穫量の予測に利用できることを確認しました。
また感覚的に温度差を感じる場所にOKIPPA_Greenを複数台設置することで、具体的な数値をもっての温度差を把握することができ、均一な環境づくりに活用することができました。
今後の展開
施設園芸などの作物生産にOKIPPA_Greenにて取得した種々の環境データを組み合わせ、栽培管理の省力化や生産性向上に資する技術開発を目指していきます。
またOKIPPA_Green は様々なセンサーを組み込むことができるため、農業だけでなく他の様々なニーズ(建設事業、グリーンインフラ等)に応えられる可能性を模索し、新たな社会貢献につながるサービスや技術開発を進めてまいります。
おわりに
太陽光利用型植物工場「Veggie」はおもに葉物の生鮮野菜栽培工場施設。
長期管理になる大型野菜や根茎野菜の育成管理栽培までの運用にOKIPPA_Greenの展開に今後は期待したいと思います。
本日も読んでいただき、ありがとうございました。
解説
※1
縦型水耕栽培装置、養液管理装置、空調機等を搭載した20フィートコンテナと同等のサイズの植物栽培設備。
※2
低消費電力で長距離の通信ができる無線通信技術。本システムはIoT用途で使われている無線通信規格「Sigfox」を利用。
※3
平均室温を約17℃、湿度を葉面に結露を発生させない50~60%RHに維持管理する条件
※4
葉面や茎に灰白色〜褐色のカビが発生する病気。茎内部にカビが侵入すると水を吸い上げられなくなり、枯死に至る。
参考・関連情報・お問い合わせなど
西松建設株式会社 https://www.nishimatsu.co.jp/
リリース記事:
https://www.nishimatsu.co.jp/news/news.php?no=NTI3&icon=44GK55+l44KJ44Gb
環境監視クラウドシステム
https://www.nishimatsu.co.jp/solution/okippa104/
グリーンラボ株式会社
https://green-lab.co.jp/
太陽光利用型植物工場「Veggie」
https://green-lab.co.jp/product-2
農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kouri/k_yasai/h22index.html