はじめに
平成20年の建築基準法第12条の改正により、10年間に一度、建築物外壁の全面打診等調査が義務付けられたが、新たに赤外線カメラでの調査についても全面打診等調査のひとつとして適用可能となり、近年の赤外線調査の普及に繋がっている。その普及の背景には、直接外壁タイルを打診する打診調査と比べ、低コストで調査を実施できるという大きなメリットがあることが上げられる。
しかしその一方で、赤外線での外壁タイル浮き調査では、作業員が赤外線熱画像をひとつひとつ目視で確認し、浮きと思われる箇所を手作業で抽出している。このワークフローでは、厳密なタイル枚数の計数ができないことや、人によって解析の結果が違う客観性の低い結果となる、などの課題が残されている。
このような課題を解決する技術として、機械的にタイル枚数とタイル浮きを自動抽出できるAIシステム「スマートタイルセイバー(以下、STS)」の開発に至った。
本稿では、STSの特徴と判定事例を紹介する。
技術の特徴
- 外壁タイルの浮き判定
熱画像から外壁タイルの目地のグリッドを自動的に検出可能。
- タイル浮きの判定
独自のアルゴリズム解析によって作成された1枚1枚のタイル割りに対し、自動的に浮きを判定し浮き率を算出する。 - 定式化された判断基準
AIによる自動判定で、作業員の感覚に頼らず誰が判定をしてもばらつきが生じない。
技術の判定事例
ここでは従来の作業員による解析とSTSによる解析の同等性を検証した事例を紹介する。
調査対象となる4棟の建物の内、それぞれ各1面に対して赤外線カメラによる撮影を行い、同じ赤外線熱画像を使用して、従来の作業員による手作業での解析と、STS解析の結果の一致率の確認をおこなった。
従来の解析では、長方形を用い比較的広い範囲での指定を行っているが、STSではタイル1枚単位で浮きが判定されている(図2)。
その検証結果は、4棟平均で両解析の一致率が80%という結果となっており(図3)、従来解析 は判定技術者のばらつきがあることを考慮してSTS解析は安定した精度で判定できると判断している。
また、この熱画像の検証事例の中で業務の効率化部分の検証も同時に行っており、STSでの解析の自動化で、従来の解析に必要な調査結果図の作成にかかる時間が削減できる。今回の例の場合、4棟の平均で37%の作業時間が短縮できている。
まとめ・今後の展望
STSは従来の属人性の高い打診調査や従来の解析と比較し、誰でも機械的に迅速にタイル浮きの可能性を判定できることから、精密調査(2次診断)の必要性を判断するための、1次診断の位置付けとなる。従来の打診調査は、場合により仮設足場を必要とすることから、その費用が重い負担となることが理由で点検を躊躇してしまう所有者も少なくない。
まずは赤外線カメラ、またはドローンで熱画像を撮影し、STSによる画像解析を行うことで補修箇所を特定し、必要箇所のみに足場を仮設することで、費用負担を抑えられる。STSは全国に施設を持っているクライアントからの関心が高まっている。今後もその検出精度を高めつつ、想定される需要の拡大に対応していきたい
スマートタイルセイバーについてのお問い合わせ
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