こんにちは。昨今の土木・建設業界では、4K画質などカメラ映像の高画質化やネットワークの高速度化、AIなどのソフトウェア、ドローン等の高性能化で、従来の働き方とは着実に変わってきていると言えます。
業界ではそれらの技術で、現場の進捗状況の確認を遠隔地から映像を通して確認する、というやり方を実施しているところが増加してきています。
しかしそのやり方に全く問題がない訳ではなく、完成形状に対しての進捗が直感的に分かりにくかったり、建機の台数等の刻一刻と変化する情報を迅速に把握できない、というような課題があります。
今回それらの課題を解決する、より効率的な現場の見える化システムを「安藤ハザマ」と「日本マルチメディア・イクイップメント株式会社」「富士ソフト株式会社」「計測ネットサービス株式会社」「宮城大学」らで構成する、「映像進捗管理システムコンソーシアム」が開発したそうです。
4K定点カメラによる工事進捗管理システム
このシステムは「定点カメラ映像による進捗管理システム」と呼ばれ、2020年1月より岩手県発注の現場で本格的な試行が開始され、現場技術者が効率的な施工管理を実施することができ、現場の生産性を向上できることが確認されているそうです。
ちなみに同コンソーシアムでは、内閣府の官民研究開発投資拡大プログラム「PRISM」の枠組みを活用した国交省の「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に選定されているとのこと。
開発の背景
建設現場では、効率的な進捗管理に向けて工事の施工状況を定点カメラで常時モニタし、現場事務所等の遠隔地から映像を通して現場状況の確認等を行う事例が増えています。一方、映像の情報だけでは、工事の進捗状況を把握するうえで下記のような課題がありました。
1.工事の完成形状に対する進捗状況が直感的に分かりにくい
2.施工量(盛土量等)や距離・面積などの定量的な情報が取得しづらい
3.稼働しているダンプや建機の台数などの常に変化する情報を素早く把握できない
定点カメラ映像による進捗管理システム
システムに実装された主な機能は以下。上記1~3の課題を解決するとともに、施工者だけでなく発注者も自由にシステムの映像を確認することができるため、受発注者双方で情報共有が可能。
出典:安藤ハザマ
1.映像に3Dデータを重ねて表示
現場に設置した4K解像度の定点カメラによるリアルタイムな映像を瞬時に擬似的な3D映像に変換し、CIMモデル、振動ローラのGNSS(衛生測位システム)データおよび深層混合処理工の施工データを重ねて表示。
出典:安藤ハザマ
これにより、工事の完成形に対する進捗状況が直感的に分かりやすくなります。また、半日分の施工量(盛土の定量的な情報)とその施工範囲が映像上に表示されるため、進捗管理および次工程の施工計画立案に活用できます。
出典:安藤ハザマ
2.映像から距離や面積の算出
パソコンの画面上を直接タッチすることで、映像上の任意地点の距離や面積を瞬時に算出できます。日々の出来高管理や資機材の配置計画といった簡易的な測量が画面上で可能となります。
出典:安藤ハザマ
3.建機検出AIによる進捗レポート
AIによる建機の識別では、ダンプ、バックホウ、ブルドーザーおよび振動ローラを識別対象として、その識別結果を進捗レポートで表示。
出典:安藤ハザマ
例えば、進捗レポートにはダンプの計画運搬台数に対する実績が30分毎の時系列グラフで表示されるため、施工途中での予実管理が可能になり、ダンプの滞留状況などの通常とは異なる傾向を早期発見し、原因分析ができます。
出典:安藤ハザマ
なお、4Kカメラの活用によりカメラからの距離が150mの場合、80%程度の識別率を確保できることを確認できているそうです。
4.オルソ画像の作成
現場を加工用に高所に設置した4台のカメラ映像を写真測量の原理に結合させて、あたかも現場上空から撮影したような画像(オルソ画像)を作成し、現場状況の進捗管理や施工計画の立案に活用。
出典:安藤ハザマ
画像は同コンソーシアムのウェブサイトにも掲載されているとのことで、地域住民の方が工事の進捗状況を自由に閲覧することができるとのこと。
ライブオルソのページ:https://otsuchi-prism.jp/live-ortho
システムの適用効果
事務所のパソコンから現場の状況や工事進捗をリアルタイムに把握できるため、現場技術者が工事の進捗状況を確認するために現場に立ち会う回数や時間が削減。
ダンプ運搬の時系列グラフによってダンプの滞留状況などの傾向を把握し、その原因を分析できるようになった他、パソコン画面上で現場の距離や面積が算出できるので、簡易な測量作業の代替えとなり、現場技術者が行っていた測量の作業時間も大幅に削減することができたとのこと。
これらの効果を積み重ねることにより、アイドルタイムが減少し、現場技術者が他の業務に注力することのできる時間が増え、建設現場の生産性が向上することが確認されたそうです。
まとめ
このシステムでは、盛土などの土木工事ほど導入の効果が大きいとの判断で、水門土木工事現場での検証が進められていますが、今後はダムや処理場などの工事へも展開していき、現場管理のムダ・ムラの早期発見と是正を図り、現場のさらなる生産性向上に取り組むとのこと。
現場に設置した4Kの定点カメラからの映像を擬似3D化し、さらにそこにCIMモデルや施工データを重ねて表示することで直感的に分かりやすくしたというシステム。
従来の課題を解決するだけでなく、発注者側とも自由に映像を共有することができるのもポイントですね。また、現場では住民の方の理解と協力も大事になりますが、地域住民の方が自由に現場のオルソ画像による進捗状況を見れるようになっているのもその一助となりそうですね。