こんにちは。ご存知の方も多いと思いますが、120年ぶりに民法が改正、施行される来年4月。主に契約に関する部分に改正が行われ、現行の「瑕疵担保責任」が廃止。新たに「契約不適合責任」に変わります。
この「契約不適合責任」ですが、内容的に製造業や建設業、システム開発ベンダなどが特に影響の大きい業種になってくると思います。特に今の時代ですから、知っておかないと大変なことになる可能性はあります。
結構以前に、東京商工会議所が中小企業へ法務対応に関するアンケートを行った結果が発表されており、そこではこの「契約不適合責任」を「知らなかった」という回答が、製造業で67.7%、建設業で67.0%とまだまだ周知ができていないという結果となっていました。
本日はその「契約不適合責任」がどういったものなのかをご紹介したいと思います。
現行の瑕疵担保責任とは何なのか?
この瑕疵(かし)という言葉ですが「キズ」や「欠点」という意味。要は本来あるべき姿とは違う状態であるということになります。
売り主は契約前に既存の不具合を明確に買い主に示しておく必要があり、その明らかにしていた部分以外での不具合「隠れた瑕疵」が見つかった場合に対し、買い主は「契約の解除」や「損害賠償の請求」を要求することができるようになったというのが、この「瑕疵担保責任」です。
これは主に不具合などが出た際に問題となる部分で、仮に不動産で言うと「建物を購入したが後に雨漏りがしてきた」などが一つの例です。システム開発では使用していく中で「バグが出た」「動作不安定になった」などが該当するでしょうか。これら引き渡し時には明らかになっていなかった「隠れた瑕疵」が対象となります。
民法が整っていない頃は、このような問題があっても買い主と売り主は押し問答になるだけで、結局は泣き寝入りするという状況。そのようなトラブルを回避し買い主を守るため民法が変わり「瑕疵担保責任」という規定ができました。
ただし瑕疵担保責任で注意しなければならないのが、売り主が引き渡しをした日を起算日として、そこから1年間が責任追及ができる期間となります。また、個人が売り主の場合は買い主側が合意さえしていれば、売り主側が瑕疵担保責任を一切負わないという形にすることも可能。(宅建取引業者等の場合は不可)
なので個人取引の場合は契約書の内容をしっかりと確認することが必要になります。
新たに施行される「契約不適合責任」とは?
20年4月から施行の「契約不適合責任」ですが、買い主の保護をさらに強めるものとなっており、既存の瑕疵担保責任の概念そのものは廃止される形になります。
その内容ですが、まず一番のポイントとなるのが「隠れた瑕疵」かどうかに関わらず「納品物が契約書の内容と合致しているか」という部分が問われます。
そして責任追及期間も、瑕疵担保責任では引き渡しから1年だったものが、契約不適合責任からは「契約不適合を知った時から1年」「引き渡し時から5年以内」と変わります。
つまり引き渡し後の5年以内に契約不適合が発覚した場合、そこで「契約不適合を知った」ことになりますのでそこから1年間責任追及ができるということになります。
隠れた瑕疵かどうかは関係ない
瑕疵担保責任では「隠れた瑕疵」が責任追及の対象でしたが、契約不適合責任では隠れた瑕疵である必要はなくなります。つまり「納品物の品質等が契約内容に適合しない」=契約不適合責任、ということになります。
例えばコンクリート壁に僅かでもクラックがある場合、隠れた瑕疵ではなく誰しも見れば分かると思います。そんな場合でも、契約上僅かなクラックでも認めないという条件だった場合は契約不適合となり、責任追及されることになります。
追完請求できる
また、瑕疵担保責任では売り主に対して修補請求、所謂不具合を直するための請求ができませんでしたが、契約不適合責任になるとその費用の請求「追完請求」ができるようになります。これも瑕疵担保責任との大きな違いになります。
追完請求は「目的物の修補」「代替え物の引き渡し」「不足分の引き渡し」の3つ。目的物の修補以外は主に製品に該当する項目でしょう。
代金減額請求できる
これは、不具合があってそれを売り主に対して直すように請求しても売り主がそれに応じない場合、または直すことが不可能な場合などに「代金減額請求」を求めることができるようになります。
こちらも瑕疵担保責任ではできなかったことです。ちなみにいきなりこの「代金減額請求」ができる訳ではなく「追完請求」を求めても応じない場合に請求できます。
損害賠償請求できる
こちらは瑕疵担保責任でもできたことですが、内容的な違いとして瑕疵担保責任では「売り主の無過失責任」だったものが「売り主の過失責任」に変わります。
契約解除できる
こちらも瑕疵担保責任でできましたが、損害賠償請求と同じく若干内容が変わります。瑕疵担保責任の場合の契約解除は、「買い主が契約目的を達成できない」時に限定されたものでした。
一方、契約不適合責任の場合は「催告による解除権」と「催告によらない解除」の2点ありその内容は以下。
1.催告による解除権
買い主側が期間を定めて催告し、その期間中に履行がない場合に契約が解除することができるというもの。ただしその期間を経過した時における債務の不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときはこの限りでない。
2.催告によらない解除
下記の場合は催告をすることなく直ちに契約解除をすることができます。
・債務の全部の履行が不能である場合
・債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合
・債務の一部の履行が不能である場合、又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約した目的を達することができない場合
もっとも重要「契約による自由な変更」
瑕疵担保責任から色々と変わった「契約不適合責任」ですが、ここが一番重要です。先で色々と変更内容を書いてきましたが、それらの内容は「契約で自由に変更が可能」だということです。
つまり新たに施行される契約不適合責任の内容が適用されるのは「契約書に記載がなかった場合」に適用されるものとなります。
何より契約書に書いてある内容が優先されることになりますので、不具合が出たとしても契約書を了承した時点でその部分に合意したことになっていた場合は、契約不適合責任の内容は適用できないということです。
まとめとしては民法改正施行後の2020年4月以降は、これまで以上に契約書の内容に注意を払わなければ思わぬ大きなトラブルに巻き込まれる可能性があるといういこと。
基本的には曖昧を避け意思疎通をしっかりした仕事をしていればトラブルにはなり難いと思いますが、何時何処でどんなトラブルが降ってくるか分かりません。そんな時に「知らなかった」ではちょっと危険なものになっていますので、明確に把握しておくことが必要です。